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まるで下町ロケット…自動トラクターが耕すスマート農業 (1/2ページ)

 GPS(衛星利用測位システム)の位置情報をもとに、手放し運転の自動操舵トラクターが白ネギ畑をまっすぐ進む-。情報通信やロボット技術を取り入れた「スマート農業」の実演会が鳥取県南部町で開かれた。農業の未来を切り開く手段として国や自治体は普及に本腰を入れるが、その背景には、高齢化と担い手不足に歯止めがかからないという、農業が直面する切実な事情があった。

 自動操縦の誤差2センチ

 無人トラクターの開発競争を描いた、TBSの人気ドラマ「下町ロケット」の一場面のようだった。中国地方の最高峰・大山を遠く望む南部町の農地で行われた「スマート農業技術実演会」。鳥取県などが主催し、生産者や農業団体、行政関係者ら約80人が参加して熱い視線を注いだ。

 「自動操舵システム」を搭載したトラクターが披露したのは白ネギの土寄せ作業。地中で育つ葉鞘(ようしょう)と呼ばれる白い部分の成長を促すため、植栽した畝(うね)の横に溝を掘り、植栽部分に土を寄せる。溝をまっすぐに掘る運転技術が求められるが、運転席の天井に位置情報受信機、運転席部にハンドルとモニターをセットで取り付けたトラクターは、GPS衛星からの測位情報をもとに地上で測位補正し、2~3センチの誤差範囲で自動操縦する。

 トラクターの運転者が途中から手放し運転をしてみせると、作業を見つめる人たちの中から「ほおっ」と感嘆の声が漏れた。農機メーカーの担当者は「丸いハンドルとタイヤのあるトラクターならどんな機種でも対応できる。既存の農機に据え付けられるのが特長」と説明した。

 県によると、無人トラクターは北海道などではすでに導入済みだが、鳥取のような規模の小さい農地での作業には自動操舵システムの方が向いているという。

 労働時間削減、収量アップ

 実演会では、稲の刈り取りに合わせて米の水分やタンパク含有率、収穫重量を測定する「食味・収量コンバイン」と、30キロの米袋を運搬する際に作業負荷を20キロ軽減する能力のある「アシストスーツ」のパフォーマンスも披露された。

 県は今年度、国のスマート農業実証事業(全国124カ所)の採択を受け、この日実演を行った農業生産・受託を行う株式会社「福成農園」(同町)などを実証農家として9つの実証技術に取り組んでいる。目標は、だれでも作業可能な仕組みをつくるとともにデータを「見える化」し、農業技術や作業労働を簡素化することだ。

 同農園が今年行った「スマート稲作」(36ヘクタール)では既存のトラクターなどを除いても、以下のように、ざっと2300万円のコストがかかる計算になる。

 (1)GPS利用の「自動操舵システム」を搭載したトラクターで水田を耕耘(こううん)=約300万円×2台(2)「直進キープ田植え機」で田植え=約300万円(3)生育状況を「衛星画像診断」=約5万円(4)「ドローンで施肥」(今回は無償提供)(5)半年間にわたって常時、水管理などを「栽培環境データモニタリング」=40台以上を運用、通信費込みで計約280万円(6)「食味・収量コンバイン」で稲刈り=約1千万円(7)「アシストスーツ」を使って米の袋詰めや運搬=約110万円(8)収穫後に「土壌診断」=約25万円

 1年間の実証で掲げた目標は、稲作の労働時間を14%削減し、10アール当たりの収量を10%アップ。さらに白ネギで20%、大豆60%、小麦で50%収量を増やし、経営全体の利益を450万円増加させることだ。

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