外食で人気の味、家庭で手間少なく
今年も残りあとわずか。新年を迎えるにあたり、家族総動員で大掃除や料理作りに追われている家庭も多いのではないか。お正月はおせちなど豪華な料理を食べる機会が増える一方で、定番の味が恋しくなる時期でもある。今回の「これは優れモノ」は、日本の国民食であるカレーを取材した。
印から英を経て日本へ
「家族みんながおいしく食べられる商品づくりに努めています」と話すのは、ハウス食品事業戦略本部食品事業一部チームマネージャーの山本篤志さん(37)。
同社は、国内のカレールウ市場で約6割のシェアを占めるトップ企業。「バーモントカレー」「ジャワカレー」などのヒット商品を通じて、戦後の日本の家庭にカレーを普及させてきた。また、キャンディーズを起用して、1976年以降に放映したテレビCMのキャッチコピー「おせちもいいけどカレーもね」は、時期を問わず、カレーを食べる習慣を根づかせたとも言える。
カレー市場の拡大に伴い、ロングセラーの定番商品に細かな改良を加えていくとともに、新商品や新たな食べ方の提案もしてきた。
ところで、カレーはインドが発祥の地。ここを植民地支配した18世紀のイギリスに続き、日本には明治期に伝わったと言われている。インドではスパイスの効いた、やや汁気のある料理全般を「カレー」と呼び、ほとんど毎日食卓に上るスープ状の家庭料理だ(丁宗鐵著『カレーを食べると病気はよくなる』)。
現在の日本人が食べている一般的なカレーとは別物と言え、われわれが慣れ親しんでいる「カレーライス」は立派な日本食と言ってもいいかもしれない。
姿かたちが違っても、カレーに共通するのがスパイスだ。スパイスは、料理においては香りづけ、色味つけ、辛みつけのために用いられるが、元々は古代ギリシャ・ローマ時代に薬効があると信じられていた。日本にも奈良時代に漢方薬として黒コショウ、クローブ、シナモンなどが伝わり、現在も正倉院に収められている。
「海軍カレー」は都市伝説
現代のとろみの付いた日本独自のカレーの発祥は、明治期のこと。初めて登場するのは、明治5年に発行された料理本『西洋料理指南』(著:敬学堂主人)という説が有力だ。
また、旧日本海軍では、長い洋上生活で曜日の観念がなくなるので毎週金曜日にカレーを出し、この慣習が現在の海上自衛隊にも引き継がれているという話が流布しているが、まったく事実とは違う。
旧海軍にそんな慣習はなく、海上自衛隊が金曜日にカレーを出すようになったのは、週休2日制が採用された1980年代後半とのことだ(高森直史著『海軍カレー伝説』)。そんな都市伝説のような話が出回っているのは、日本人がそれだけカレーを愛してやまないからかもしれない。
ともあれ、ハウス食品の山本さんは、今年9月、マイルドなカレーソースと鶏肉を加えた人気のインド料理を家庭で手軽に食べられるという新たな市場を開拓する意欲作を企画開発し、発売した。それが「こくまろバターチキンカレー」〈甘口〉だ。
「今回のバターチキンカレーは、日本のおうちカレーのレパートリーを広げる自信作です」と山本さんは胸を張った。