10月末に発表された、来年1月1日付の大阪ガスの社長交代。その会見では、もうひとつの注目人事があった。大阪商工会議所の会頭を務める尾崎裕(ひろし)会長(70)の取締役相談役への就任だ。来年の株主総会で取締役も退く。過去多くの大商会頭は本業で相談役などに退いた後、会頭も退任。本業での「引退」は、会頭退任の前触れとも受け取られているためだ。退任のカウントダウンが始まったのか。(黒川信雄、岡本祐大)
早々に続投表明
「みなさんに(大商会頭を続けることに)『ええかげんにせえ』といわれないよう頑張ります」
大ガスの社長交代会見に同席した尾崎氏は、大商会頭職についての質問に冗談を交えながら、続投への意欲を示してみせた。
尾崎氏は平成27年12月、故佐藤茂雄(しげたか)氏(京阪電気鉄道最高顧問、当時)の後を継ぎ、大商会頭に就任。今年12月には就任から満5年となることから、去就が注目されていた。尾崎氏に先立つ平成16年に大ガス会長から大商会頭に就任した野村明雄氏(84)=大ガス特別顧問=の在任は6年間で、「前任の大ガス出身者の在任期間を超えることはない」との見方があったためだ。10月末の2期目の任期満了を前に観測が飛び交った。
しかし、尾崎氏は7月の会見で早々と「新型コロナウイルスの影響を受けた大阪経済を再び成長軌道に戻し、大阪・関西万博を成功に導くため、さらに努力して参りたい」と続投表明。11月2日の大商の臨時議員総会で選任された。
大阪・関西万博に影響
事実、中小企業支援を事業の中心に位置付ける大商には、新型コロナで打撃を受けたサービス業や飲食業の企業から資金繰りや経営などの相談が殺到している。今年の相談件数は9月末までで前年同期比1・6倍。新型コロナの感染が再び拡大をみせるなか、大商はまったなしの対応を迫られている。
さらに、関西財界が誘致段階から深く関与してきた万博も懸案だ。新型コロナの影響で準備が難航しており、会場建設費約1250億円のうち、財界が負担する約400億円の寄付金集めはまだ途上。さらに建設費上振れの可能性も取り沙汰されており、今後調整が本格化する見通しだ。財界にとって、中心人物の尾崎氏が交代すれば万博準備にも影響が出かねない。
あと1年?
ただそれでも、財界内には「今回の続投は現時点では退任しないという意思表示で、来年以降はまったく分からない」との見方が強い。背景には、大商と大ガスを取り巻く2つの慣習がある。
大商会頭は任期を残して退任することが慣習となってきた。かつて会頭人事をめぐって起こった混乱がきっかけだ。昭和56年、10年以上在任した近畿日本鉄道出身の佐伯勇氏(故人)の続投をめぐり、関西財界を二分する激しい対立が起きた。その教訓から、長期の在任を避けようと任期途中での「禅譲」の慣習が生まれたとされる。実際、その後の会頭はすべて任期を残して退任している。
仮に尾崎氏が3期目の任期3年をまっとうした場合、在職は8年。佐伯氏以降の約40年間で最長となり、異例の長期政権だ。