自前の発電所を持たずに電力の卸市場から電気を仕入れて販売する「新電力」と呼ばれる小売り事業者の一部の電気料金が、2月請求分以降で大幅に上昇する懸念が広がっている。値上がりが見込まれるのは市場連動型の料金プラン。電力の卸価格が1月中旬に急騰した影響を受けている。背景にあるのは、昨年末以降の寒波の襲来に加え、液化天然ガス(LNG)の調達不足などによる電力需給の逼迫(ひっぱく)だ。電力自由化で参入企業が増えた新電力だが、卸市場からの調達頼みの事業構造といった課題への対応を求められそうだ。
2、3倍の可能性も
「2月分は通常より約1000円高くなります」
一部で市場連動型プランを提供するみんな電力(東京)の担当者はこう説明する。同社の東電エリアで40アンペア、使用電力量400キロワット時で契約している場合、卸価格が安定していた昨年9月の料金は1万97円。その前後もほぼ同水準だった。しかし激変緩和策を持つ同社でも、2月請求分は1万1064円に値上がりするという。
完全市場連動型のプランを提供する企業では、料金が2~3倍になる可能性があると事前告知したり、固定料金プランへの切り替えを推奨したりするなどの対応に追われる。
楽天モバイルは電力小売りサービス「楽天でんき」の新規契約を1月26日から一時停止。秋田県鹿角市などが出資する新電力「かづのパワー」は公共施設への電力供給休止を決めるなど深刻な影響が出ており、今後も同様の事例が続く可能性がある。
今回の電気料金上昇は自前の発電所を持たず、卸市場で購入した電力を消費者らに販売する新電力が中心だ。卸市場でのスポット価格はここ数年1キロワット時あたり10円前後で推移していたが、1月15日に最高で251円まで跳ね上がった。
(【指摘されていた危険性、その背景】電力の小売り全面自由化から3年 逆風の新電力も)
背景には寒波による電力利用の急増や、悪天候で太陽光発電など再生可能エネルギーの発電量が増えなかったことで、電力需給が逼迫したことがある。また中国などがLNG輸入を拡大させる中、米豪などのLNG供給設備のトラブル多発やパナマ運河の混雑に伴う輸送の長期化などが重なったことも影響した。
リスク浮き彫り
このところは寒さも和らぎ、卸価格は落ち着きをみせているが、猛寒波やLNG不足が再来すれば改めて価格が高騰する可能性もあり、予断は許さない。
日本総合研究所創発戦略センターの滝口信一郎シニアスペシャリストは「卸市場からの調達に100%に近い形で依存している新電力はリスクが高い。壊滅的な被害をシミュレーションしたうえで、半分程度は自社で電源を持つなどの対応が必要」と指摘する。
今回、全国規模の電力逼迫を経験したことで、電源確保の在り方や新電力のビジネスモデルの課題が浮き彫りになった。新電力は事業構造の見直しを迫られるほか、政府にも電力の安定供給や市場制度の在り方などについての検討が求められる。(那須慎一)