選ばれる不動産会社へ「一室入魂」
--他社は違うのか
「不動産投資を手がけるライバルは出現するが、ほとんどの会社が収益の大きい売買をメインに据え、管理に軸足を置かない。管理をサービスの一環ととらえ、販売を増やすため管理費を安くする。すると販売戸数が増えるほど管理はおろそかになり、オーナーの不評を買う。長期的視点に立たず目先の利益を優先すると結局、オーナー離れを起こす。管理収入という長期安定収入がないと人件費や事務所費用など固定費を賄えず、経営的に危なくなる」
愚直にコツコツと
--管理にこだわることで経営目標に掲げる「選ばれる不動産会社」になれる
「経営理念は不動産や保険、家族信託を通じて一人でも多くの経済的自由を実現することであり、中期経営計画を策定したことはない。追いかけるのは数値ではないし、スローガンありきでもない。管理を通して一生涯のお付き合いを築くため、言い換えるとオーナーや入居者に選ばれるため愚直に、コツコツと質の高い管理に取り組んできた」
「エアコンや給湯器などの故障や漏水といった入居中のトラブルのほか、最近ではテレワークの普及により在宅時間が増えたことで騒音トラブルも増加している。こうした困り事への早期対応が退去を防ぐ。そのためには入居者やオーナーの困り事、悩み事を社員が把握すること。トラブルだけでなく、結婚や出産、介護、相続など人生のドラマにあわせてしっかり対応することで一生涯のお付き合いにつながる。まさに『一室入魂』で、このためオーナー事務局を設け、不動産の有効活用や税金など専門家と連携しながらオーナーの資産形成をサポートする。ちなみに、この『一室入魂』と『コツコツが勝つコツ』は商標登録された」
--困り事の対応で生まれたサービスは
「家賃債務保証(サービス開始は14年11月)や家族信託(16年11月)、入居前に購入した家具などを設置する『楽っ越しサービス』などは社員の提案から始まった。このうち家賃保証は滞納家賃の督促業務を行う債権管理部に所属していた社員が発案した。当社の入居者の属性情報に熟知しており、自社で家賃保証を行っても貸し倒れリスクが少ないことが想定できたためスタートした」
「家族信託は投資用マンションを販売する資産コンサルティング部のスタッフが提案した。相続対策としてマンションを紹介しているのに認知症になって意思能力が失われるとせっかくの相続対策を行えなくなる。そこで家族信託で認知症対策を合わせて進めていくことにした。この他に『自宅を購入したい』『相続した土地を売りたい』といった声に応える形で専門部署をつくった」
--社員提案が有効に働いている
「社員の提案から生まれたサービスの中には事業の柱に育ったものもある。提案を受け付ける業務改善制度を利用したアイデアは経営会議で協議して採用するかどうかを決めるが、個人的にはすべてをやらせたい。失敗もその後の成長の肥やしになるからだ。失敗も多いが、挑戦しないと何も生まれないし、何が必要かも分からない」
成長サイクル回す
--今後の展開は
「成長サイクルを『弾み車』として表現している。ベースは東京の中古・ワンルーム販売とそのオーナーからの管理受託。これにより管理戸数、つまりオーナーと入居者を増やし、ストック収入(長期安定収入)の拡大と安定経営につなげる。すると人材の採用・育成やシステム開発、不動産テックへの投資を積極化できる。中でも人材を増やすことできめ細かい管理というサービスを拡充できる。オーナーや入居者の満足度も高まるので、ワンルームの販売と管理戸数の増加につながる。このサイクルを回していく」
--社会貢献活動に積極的に取り組んできた
「創業時から寄付活動を行ってきた。10年から地元の新宿区社会福祉協議会を通じて、地域の福祉団体に助成金として毎年500万円を寄付している。またNPO法人日本を美しくする会主催の新宿街頭清掃に12年から参加。現在はコロナで清掃活動が開催されていないが、それ以前は私を含む有志社員が参加していた」
「11年の東日本大震災時にはがれき撤去や田畑の雑草除去などのボランティア活動に参加した。これをきっかけに、その後の熊本地震(16年)や西日本豪雨(18年)などの大規模災害が発生したときには社員と会社から義援金を送っている。10年8月から認知症サポーター養成講座を受けることにし、新卒・中途社員は年1回、講習会を開催して全社員がサポーターになれるよう努めている」
【プロフィル】重吉勉
しげよし・つとむ 1985年早稲田大社会科学部中退。不動産会社を経て1990年日本財託を設立し社長。2000年日本財託管理サービスを設立し社長を兼務。58歳。石川県出身。