企業のESG(環境・社会・企業統治)、サステナビリティー(持続可能性)に関連した取り組みが活発化する中、こうした活動を投資家やステークホルダー(利害関係者)が適切に評価するには情報開示、特に非財務情報の開示が非常に重要である。特に環境金融、サステナブルファイナンスの発展に向け、比較可能性や効率性の観点から開示に関する共通した枠組み構築への期待が高まっている。
現状、主要な国際的な非財務情報の開示に関連する提言や枠組みとして、TCFD(気候関連情報開示タスクフォース)提言と5つの非営利組織によるものが挙げられるが、それぞれ特色がある。例えば報告内容の範囲では、TCFDやCDP、CDSB(気候変動基準委員会)は気候変動、環境関連の報告に焦点を当てているのに対し、SASB(サステナビリティー会計基準委員会)、GRI(グローバル・レポーティング・イニシアチブ)、IIRC(国際統合報告評議会)は環境関連を含むサステナビリティー関連の報告を求めている。その他、報告・開示の対象者などにも違いがある。(【(上)増加するグリーンボンド発行】金融市場、課題解決を後押し)
5組織が共同声明
5非営利組織は対立しているわけではない。2020年9月に財務情報と非財務情報を包括し、投資家を始めとしたマルチステークホルダーのニーズを満たす企業報告の実現を目指す共同声明を公表。同年11月には、IIRCとSASBが21年半ばにも合併し、包括的な企業報告フレームワークの構築を目的としたバリューレポーティング財団を設立することも発表された。
一方、IFRS(国際財務報告基準)を策定するIASB(国際会計基準審議会)の設置団体であるIFRS財団は、サステナビリティーに関する国際的報告基準の策定を目的に、SSB(サステナビリティー基準審議会)の設置を打ち出した。第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の開催(21年11月)に先立ち、設置に関する最終決定を予定している。
他方、TCFD提言に基づき環境などの情報開示を義務化する動きが欧州を中心に見られる。欧州連合(EU)では、21年4月に現行のNFRD(非財務情報開示指令)を改定、強化する形でCSRD(企業サステナビリティー報告指令)とする提案が公表された。同指令に基づく報告対象となる大企業は現在の1万1000社から5万社へと拡大する。早ければ23年1月に開始する年度から適用予定だ。
また、英国では25年までにTCFD開示の完全義務化を目指し、まず21年1月よりロンドン証券取引所プレミアム市場の上場企業に対し、TCFD提言に沿った開示を義務化した。米国でもバイデン政権は上場企業に対し、気象関連リスクと温室効果ガス排出量の開示を求めることに取り組む方向である。(【(中)GPIF、株式指数採用など取り組み】年金基金、ESG投資を重要視)
日本も対応急務
日本で、21年6月をめどに改定予定のコーポレートガバナンス・コード案が4月に公表された。その中で、(1)上場会社は自社のサステナビリティーについての取り組みを適切に開示すべきであること(2)22年4月の東京証券取引所市場区分変更によって開設される「プライム」市場上場企業に対し、TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきこと-とされた。
20年10月の菅首相所信表明演説において、日本でも「脱炭素社会」の実現を目指すことが示され、環境への取り組みが「待ったなし」となった。日本企業は、国際的な動向をにらみつつ、サステナビリティー関連の開示に対し主体的、かつ積極的に取り組むことが肝要である。(野村資本市場研究所野村サステナビリティ研究センター主任研究員 西山賢吾)