本来は食べられる食品にもかかわらず捨てられてしまう「フードロス(食品廃棄)」を削減する取り組みが盛んになってきた。国連の持続可能な開発目標「SDGs」への社会的関心が高まる中、フードロス削減は企業にとっても顧客満足度や自社の企業価値を向上させる効果が期待できる。食品関連企業だけでなく、ホテルや鉄道会社にも削減の輪が広がっている。
食品宅配サービスのオイシックス・ラ・大地は、形状に問題があり廃棄処分が見込まれていたキャベツを活用した商品「もったいないキャベツ餃子」を今月9日に発売した。契約生産者が所有する静岡県内の畑から出た、通常よりも小ぶりのものや芯が急成長して上部が割れたものなど、廃棄処分が見込まれていたキャベツ約400個を使う。価格は1パック10個入りで429円、2パック20個入りで842円だ。
スターバックスコーヒージャパン(東京都品川区)は、店舗ごとの当日の在庫状況に応じてドーナツやケーキ、サンドイッチなどを閉店3時間前をめどに20%引きで販売する取り組みを今月23日から全国の約1600店舗で開始した。売れ行きが良く在庫が十分減った場合などは割り引かない日もあるが、同社は「期限切れ食品の廃棄量削減はとても大事な取り組み」としている。
また、ホテルニューオータニ東京(同千代田区)は9月末までの期間限定で、「フードロスゼロ」をうたった新作のカクテル「Loss ZERO」を館内のコーヒーショップやルームサービスで販売。フルーツジュースの材料となるレモンなどの果物から果汁を搾り取った後の皮を、砂糖や朝食などで余った牛乳を加えてシロップをつくった上で、コーヒー豆の果皮を乾燥させてつくったカスカラティーとウオッカで合わせる。
新型コロナウイルスの感染拡大で東京都が緊急事態宣言の対象となっているため、ウオッカを抜いた形でノンアルコールカクテルとして提供。担当者は「ケーキやスイーツとの組み合わせで、SDGsやサステナブル(持続可能)といったキーワードに着目して注文する利用客が多い」と説明する。
鉄道会社もフードロス削減に動いている。JR東日本の全額出資子会社で社外のベンチャー企業への投資や新規事業の立ち上げを担うJR東日本スタートアップ(同港区)は、JR東京駅の構内で3月下旬から、商業スペース(エキナカ)で売れ残ったパンや弁当、おにぎりなどを、構内で働く従業員約8400人を対象に閉店後に販売する取り組みを本格的に始めた。エキナカの店舗から、売れ残った食品を重量に応じて買い取った上で、詰め合わせにし、従業員に通常よりも安く販売する。
昨年に3回行った実証実験では、JR東京駅構内の商業施設「グランスタ東京」を中心に、計177日で約7920食、約4.3トンのフードロスを削減した。本格展開に乗り出した狙いについて、担当者は「店舗には廃棄処分の手間やコストが減るメリットがあり、利用した従業員の満足度も高い」と話す。
SDGsには、2030年(令和12年)までに小売り・消費レベルでの世界全体の1人当たりの食品廃棄物を半減させることが盛り込まれている。農林水産省によると、平成30年度の国内のフードロスの量(推計値)は前年度比12万トン減の600万トン。推計を開始した24年度以降で最少だったが、国民1人当たり毎日、茶碗約1杯分の食料を捨てている計算だ。(森田晶宏)