Bizプレミアム

次代のゲーム開発へつなぐバトン スクエニが70年分の資料を「SAVE」する理由 (2/2ページ)

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部

倉庫に眠る「宝の山」

 こうした軌跡をたどり、後進の開発者が参考にできるのも、実現しなかった「コンペット」を含めた当時の企画書があってこそだ。三宅さんが資料保存の重要性に気付いたのは2019年の夏だった。

 社内のデジタルライブラリを見ても必要な技術資料が見つからず、倉庫1つ分のアナログ資料を取り寄せた。すると、「ダンボール箱を開けたら開発者にとっての『宝の山』でした。非常に有用な設計資料などがあり、管理しなくてはならないと思いいたりました」(三宅さん)。

 三宅さんたち3人のメンバーの調べで、倉庫に眠っているダンボール箱はグループ全体で1万箱以上にのぼり、そのうち1割強が開発資料だとわかった。また宣伝素材は宣伝部が、書籍は出版部がというように部署ごとに独自に管理しており、「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」「キングダムハーツ」などの看板タイトルについてはそれぞれの部署が管理している実状も判明した。

 ダンボール箱の中身をリスト化し、紙の資料をPDFなどのデータにする方針を決めた三宅さんは2020年の春、社長にバンダイナムコスタジオの先行事例を紹介し「SAVE」プロジェクトを正式発足させた。しかし、それからすぐに新型コロナウイルス感染対策で全社的にリモートワークが推奨されるようになってしまう。当然、出社しなければ倉庫の資料をリスト化することなどできない。

 「最も大きかったのは、在宅ワーク推奨によるオフィス縮小の懸念です。(同社が正式にオフィス縮小を決めたわけではないが)個人管理の開発資料が廃棄されるのを食い止めなければなりませんでした」(三宅さん)

 そこで、万が一を想定して社内向けに動画を作り、総務部と連携して資料を譲渡してもらえるよう社内に呼びかけた。早めに手を打ったのが奏功し、デスクのシェアなどでオフィスの在りようが変わっても資料が散逸するのを防げたという。

 三宅さんは「“細く長く”でやっていくつもりだったのに、いきなり“太く”なってしまいました」と苦笑い。これまでの作業で旧エニックスの資料はデータ化とインデックス化が完了したが、まだ膨大な量が残っているという。

人事支援にも

 「過去の資料を整理することは未来のゲーム開発につながる。現在の位置を知ることができるのです」

 資料の保存に力を注ぐ三宅さんには苦い経験があった。2004年に、脳の動きを模倣するニューラルネットワークという技術をゲームに導入したいと提案したが、あっさり“ダメ出し”されたのだ。当時の技術では導入が難しいという、ゲーム開発の現在地を把握できなかったがゆえのつまずきだった。

 以前の仕事をデータ化して新入社員でも閲覧できるような、次の世代に「バトンを渡していく」(三宅さん)環境を構築できれば、こうした事態を防げるというわけだ。さらに、これまでのゲーム開発の流れが、今後を見通す材料になる点についても期待できるという。

 また、三宅さんは在宅ワークが続いて社員同士の人間関係が薄まるなかで、自社の歴史を可視化することが帰属意識を高めて人事支援にも役立つと強調した。時間と労力はかかるものの、過去の資料を大切にすることはゲーム業界以外の企業にとっても参考になりそうだ。

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
SankeiBiz編集部員が取材・執筆したコンテンツを提供。通勤途中や自宅で、少しまとまった時間に読めて、少し賢くなれる。そんなコンテンツを目指している。

【Bizプレミアム】はSankeiBiz編集部が独自に取材・執筆したオリジナルコンテンツです。少しまとまった時間に読めて、少し賢くなれる。ビジネスパーソンの公私をサポートできるような内容を目指しています。アーカイブはこちら

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus