金融

岸田政権に不安要素 原油高の背景に脱炭素、増産への意欲戻らず

SankeiBiz編集部
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 ニューヨーク市場で約7年ぶりの高値をつけた原油高が日本の消費生活に悪影響を及ぼす懸念が浮上している。現状の価格水準が続けば、家計にとっては年間2万8000円の負担増になるとの試算もあり、消費者心理を冷やすことは必至だ。原油高の背景には新型コロナウイルス禍からの経済活動復活で需要増が見込まれている事情のほか、脱炭素の潮流が強まる中で原油関連企業の生産意欲が戻らないことがある。円安と同時進行する原油高は企業活動へのダメージを増幅させる効果もあり、岸田文雄政権が発足したばかりの日本経済に不安要素が加わった。

 7年ぶりに1バレル=80ドル台

 「原油高が経済に悪影響を及ぼすことは避けられない」。第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは原油価格の動向が景気の足を引っ張る可能性に警鐘を鳴らしている。

 11日のニューヨーク原油先物相場では、指標となる米国産標準油種(WTI)の11月渡しが1バレル=80.52ドルとなり、終値として2014年10月以来、約7年ぶりに80ドル台の高値となった。一時は82ドル台まで上昇する場面もあった。

 原油高はすでに身近な商品価格に影響を与えている。経済産業省が6日発表した4日時点のレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均小売価格は3年ぶりに160円に到達した。

 永浜氏は1バレル=80ドル台の水準が続けば家計の負担は年間2万8000円増加すると試算。また原油高はバイオ燃料の原料であるトウモロコシなど穀物の価格を押し上げる効果もあり、「家計負担はさらに4000円程度上乗せされる」とみている。

 コロナ禍からの復活で需要増の観測

 原油高の要因を需要面からみると、新型コロナ禍からの世界的な経済活動再開でエネルギー需要が高まるとみられていることが大きい。一方、供給面では石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の産油国でつくる「OPECプラス」が4日の閣僚級会合で、協調減産の幅を縮小させるペースの維持を決め、追加的な増産を見送ったことが「原油市場の需給逼迫(ひっぱく)が続く」との観測につながった要素がある。

 また見逃せないのが、世界的な脱炭素の潮流の中で「大半の原油関連企業が開発のための投資を減らしている」(証券業界関係者)ことだ。米原油関連企業ベーカーヒューズによると、石油を掘削する設備の米国内での稼働数は8日時点で433基。昨年8月に172基まで減った水準からは大きく回復しているが、前回原油価格が80ドル台をつけた14年10月には1600基を超えていたことを考えると、投資意欲の落ち込みは明らかだ。

 足元の原油高は円安と同時進行しており、原油をドル建てで購入する日本企業にとっては、コストアップとなる要因が二重でのしかかる。市場には原油価格が100ドルに達するとの声もあり、岸田政権が目指す成長と分配の両立にとっての悪材料といえそうだ。

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