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電気自動車には苦手な分野が…なぜトヨタは燃料電池車の開発をやめないのか (2/3ページ)

 2030年に水素ステーションは5倍に増える

 水素燃料電池車に水素を供給する水素ステーションは、現在(2021年8月)全国に166カ所あります。全国に3万カ所あるガソリンスタンドと比較すると、安心できる数字とは言い難いでしょう。今後、燃料電池車を普及させていくためには、水素ステーションの増設が必要条件となるはずです。水素基本戦略では、2030年には900カ所にまで増やすことを目標にしています。

 水素ステーションの形態は、大きく分けて3つあります。

 オンサイト型と呼ばれるタイプは、ステーション内で天然ガス、LPガス、メタノールなどを改質して水素を製造します。水素の供給には、製造装置の他、圧縮機、蓄圧器、冷凍機などの設備が必要となるため、広い敷地面積が必要です。

 オフサイト型は、外部で製造した水素をトレーラーやローリーで運んで貯蔵しておき、燃料電池車に充填します。敷地面積が限られた場所でも開設が可能です。

 また、大型トレーラーの荷台に水素供給のための設備一式を搭載した移動型ステーションもあります。週1~2回と限定されるものの、複数の場所で水素供給が可能になります。

 高技術が必要な水素供給を担う2大事業者

 水素の充填は、ガソリンと同じように、車体横の水素注入口に水素ディスペンサーのホースのノズルを接続しておこないます。注入するのは圧縮水素ですが、タンク内に注入して膨張させると温度が上昇するので、あらかじめマイナス40度にプレクールしてから充填します。

 主な事業者は、ガソリンスタンドでおなじみのENEOS(エネオス)と、カセットコンロで有名な岩谷産業で、それぞれ50近い水素ステーションを運営しています。

 ENEOSでは、石油精製所内の水素製造設備を利用して水素を製造し、高圧圧縮でオフサイトステーションに供給しています。また、既存のガソリンスタンドを併設する形で、増設を進めています。

 岩谷産業は、戦前から工業用水素を扱うこの分野の草分けです。高圧圧縮がメインですが、液化水素の貯槽をもつステーションも扱っています。宇宙航空用も含めて、液化水素の国内シェアは100%です。

 液化水素の場合、マイナス253度の超低温を維持し続けるのは難しく、外部からの侵入熱によって、わずかずつですが気化(ボイルオフ)が発生します。このボイルオフを、水素吸蔵合金によって回収して、圧縮水素として燃料電池車に充填する仕組みができています。

 石油燃料由来から自然エネルギー由来へ

 現状では、水電解による製造原価が高いため、商用の水素は、ほとんどが化石燃料由来ということになります。ただし、東京五輪・パラリンピック開催期間中に限って、関係車両(東京五輪・パラリンピックでは関係車両に燃料電池車を採用)が充填する都内の7つのステーションに、山梨県の「P2G(パワー・トゥ・ガス)システム」で、太陽光によって製造したグリーン水素を供給しました。

 また、2021年8月にリニューアルオープンした、ENEOSの横浜旭水素ステーションでは、太陽光による電力と同社グループから調達する再エネ電力を使用して水電解で製造するグリーン水素を、オンサイトで提供しています。

 水素ステーションでの水素の販売価格は、一部を除き1100円/kgです。これは前述したとおりガソリン車の燃料価格と“ほぼ同等”ですが、普及を目的にあえて設定した価格で、とても採算がとれる価格ではないと思います。

 今後、燃料電池車がさらに普及し、日常的に充填する車が増えない限り、水素ステーションの運営は、開設のための初期投資も含めて、政府の補助金なしでは成り立たない厳しい状況だといえるでしょう。

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