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電気自動車には苦手な分野が…なぜトヨタは燃料電池車の開発をやめないのか (3/3ページ)

 燃料電池車が生き残る鍵は大型車両にある

 それでは、今後ガソリン車に代わって普及していくのは電気自動車で、燃料電池車は淘汰されてしまうのかというと、そんなことはないと思います。今後の燃料電池車の可能性については、「ヘビーデューティ」がキーワードだと考えています。

 つまり、トラックやバスなどの大型車両では、ガソリン車はもちろん、電気自動車よりも燃料電池車のほうがメリットがあると考えられるのです。

 理由のひとつは、燃料電池は小さくて、軽くて、パワーが出せる、ということ。乗用車くらいのサイズではほとんど差が出ませんが、より大きなパワーを出そうとすると、エンジンやバッテリーはそれに比例して機材自体も大きく、重くならざるを得ません。しかし、燃料電池では、パワーを2倍にするために必ずしも2倍の大きさにする必要はなく、小型でも高出力が可能です。

 弱点を克服でき、強みを最大限生かせる

 もうひとつの理由は、大型車両は商用がほとんどであることです。

 輸送に使われる大型トラックは、たいていは決まったルートを走ります。大型バスも、路線バス、観光バス、長距離バスなど、走るルートが決まっています。ということは、燃料電池車の場合にネックとなる水素ステーションの問題がない、ということです。あらかじめルート上の充填場所を確認しておけばよいですし、必要であれば、自前で設置したり、定期的な利用を条件に供給事業者と交渉して設置してもらうこともできるはずです。

 また、MIRAIで検証したように、航続距離が長い、というメリットもあります。トラックやバスは、長い距離をひたすら走り続けるのがふつうですから、その間、燃料補給の回数が少なくて済むのはメリットです。

 さらに、燃料補給の時間が短くて済むのは、とくに電気自動車と比較した場合、大きなメリットです。MIRAIの場合、約5キログラムの充填にかかる時間は約3分。大型になってタンク容量が大きくなっても、10分を超えることはないでしょう。電気自動車では、1時間以上の充電時間が必要になるはずです。

 とくに、輸送効率が利益に直結するような長距離輸送の場合、燃料補給時間の短縮は大きなメリットになります。

 燃料電池車と電気自動車が棲み分ける時代に

 すでに、燃料電池を使用した大型トラックについては、トヨタ自動車と日野自動車が共同で開発を進めていて、2022年には走行実証をおこなうと発表しています。

 さらに、本田技研工業といすゞ自動車、ボルボとダイムラートラックなどが、共同研究を進めるなど、各社が活発な動きを見せています。

 また、バスについては、2018年にトヨタ自動車が燃料電池バス「SORA」を販売開始。すでに都営や京急、東急などで導入が進んでいます。中国では、燃料電池で走るバスが大量に導入されています。

 今後、脱炭素化が加速するにつれ、ガソリン車は消えていくことになるでしょう。すでに、欧米諸国では、将来的にガソリン車の新車販売を禁止する方針を打ち出す国が増えています。

 将来、ガソリン車に代わるのは、水素を燃料とする燃料電池車なのか、それとも電気自動車なのか。

 わたしは、どちらかが淘汰されるのではなく、棲み分けが進むのではないかと思っています。わたし自身は長年水素の研究をしてきたので、「これからのモビリティ燃料も水素だ」といいたいところですが、やはり一般の乗用車は電気自動車が主となる可能性があると思います。そして、大型で走行ルートが決まっている場合は水素、というように棲み分けが進んでいくのではないでしょうか。

 西宮 伸幸(にしみや・のぶゆき)

 水素エネルギー協会前会長

 1974年、東京大学理学部化学科卒。工業技術院、富士フイルム、豊橋技術科学大学などを経て2007年より日本大学理工学部物質応用化学科教授、2017年より2021年まで特任教授。一般社団法人水素エネルギー協会前会長(現顧問)。

 (水素エネルギー協会前会長 西宮 伸幸)(PRESIDENT Online)

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