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ファスト映画とは違う? 本の要約サービスが出版社と“共存共栄”になれたワケ (1/2ページ)

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部

 映画の内容を10分程度に短く編集し、YouTubeなどに無断で公開する「ファスト映画」が問題視される中、書籍1冊分の内容を10分程度で読める本の要約サービスが人気を集めている。読者には時間の節約になるメリットがあるが、いわば「ファスト書籍」ともいえる内容だけに、出版不況にあえぐ書店や出版社はたまらないだろう。ところが、さにあらず。本の要約サービスの存在は著者や出版社の「公認」で、本の売り上げにも貢献しているのだという。違法性が強く指摘されるファスト映画とは、まるで事情が異なるようだ。

 スキマ時間に“本の肝”だけ読む

 ファスト映画は、新型コロナウイルス感染拡大による「巣ごもり需要」の高まりとともに、YouTubeなどで目立つようになった。本家の作品が有料で鑑賞されなくなったことによる被害は甚大だ。今年6月には、宮城県警が著作権法違反の疑いで札幌市の男ら3人を逮捕、7月に仙台地検が同罪で起訴している。また書籍でも、著作権者との関係が定かでない要約コンテンツはある。SNSのTwitter(ツイッター)で散見される「本図解」などと称される投稿は、本の重要な内容を抜粋し、表やグラフといった何枚かの画像にまとめたものだが、著者や出版社の許可を得て掲載しているのかどうか不明だ。

 これに対し、著作権者の許諾を得て、本の要約を掲載しているサービスも。その代表格が、スキマ時間を活用し、話題のビジネス書や教養書などが10分で読めるという「flier」(フライヤー)だ。フライヤーの社長、大賀康史さんは「できあがった要約記事は、必ず著者や出版社に確認してもらった上で公開しています」と強調する。

 ビジネス書を中心に、リベラルアーツ(実践的な教養)分野の新刊やベストセラーを多く取り上げ、これまで2600冊以上の要約を掲載。大賀さんは「『書評』には書評家さんの主張が多く入りますが、フライヤーの『要約』では要約者の意思を入れず、著者が伝えたいことをできるだけ再現するようにしています」と語る。

 サイトには書籍の表紙画像がずらりと並ぶ。気になる本の表紙をクリックすると、「革新性」「明瞭性」などの評点が記され、本文の「要約」とは別に、「要点」や要約者による「レビュー」が掲載されている。本の「読みどころ」を端的にまとめ、要約者が何を思い、感じたのか知ることができるようになっているのだ。

 たかが本の要約とあなどるなかれ。1冊の書籍を4000字程度にまとめるのは大変だ。フライヤーでは、自社の編集者や外部ライター約50人が著者の主張や論理を忠実にまとめ、著者や出版社のチェックを経て公開することで品質を担保しているというから、されど本の要約、である。

 この要約全文を読むには会員登録が必要だ。一部無料で読めるものもあるが、2600冊以上の全要約を読むことができる「ゴールドプラン」は月額2200円。動画視聴などのサブスクリプション(定額課金)サービスと比較すると、少し高めの印象を受けるが、有料会員を含む個人会員数はコロナ禍で倍増し、累計約87万人に上る。

 「著者の水準まで知を高めようというストイックなモードではなく、自分にとって役に立つものに多く触れていただき、カジュアルに学んでほしいという思いがあります」。こう語る大賀さんも、かつては要約者のライター陣に名を連ねた一人。選りすぐりの名著を紹介した『ビジネスエリート必読の名著15』(自由国民社)などの著者でもあり、「(要約サービスを利用して)肩の力を抜いて本に触れてほしい」との思いは強い。しかし、肝心の本が売れなくなる恐れはないのか。

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