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家を持たずに各地のホテルを転々と…自由な働き方を実践する36歳女性のホンネ (1/2ページ)

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部

 新型コロナウイルス禍で浸透した職場から離れて働くリモートワークをさらに進め、住む場所にさえ縛られない生活を選択する人たちが現れ始めた。家を持たずに各地を転々としながら仕事をする「デジタルノマドワーカー」。ネット環境を駆使し、遊牧民(ノマド)のような暮らしをするスタイルからついた呼び名で、コロナ後の新しい生活スタイルとして注目を集めている。そんな生活の実践者の暮らしや心境は以前とどう変わったのだろうか。デジタルノマドワーカーの1人、山本直子さん(仮名・36)に率直な質問をぶつけてみると、返ってきたのは「『縛られていたもの』がけっこうあったんだなと。全てを手離してみたら自分を振り返る心の容量が増えました」という、ポジティブな言葉だった。

 スーツケースと非常袋が全所持品

 スーツケース1つと災害時に備えて購入したという非常用ザック。「こう見えて意外と慎重なんです」と笑顔で話す余裕とは裏腹に、山本さんの全所持品はたった2つの荷物に収まる少なさだ。賃貸マンションを解約した今年の5月以降、住んでいた横浜から東京都内、京都府内のホテルを転々とし、この日は岡山市の後楽園からリモート取材に応じてくれた。

 勤務先は多店舗・多拠点で事業を展開する企業の経営をシステム面から支援するクリップライン(東京都品川区)。山本さんはクライアントのサポートや運用設計を行う業務を担当している。現在の生活は、コロナ禍でオフィスの規模が縮小し、勤務形態が在宅に完全シフトしたことを機に始めた。社会的に閉塞感が漂い、部屋に籠る生活にストレスが溜まるなか、元来旅好きだった山本さんは、賃貸契約更新のタイミングで家賃13万円の暮らしを抜け出し、生活そのものを“旅化”することを決意した。

 「会社がリモートワークを推奨するようになり、実家から業務を行う社員も増えていたので、その延長でノマドライフも問題ないだろうと考えました。会社に相談したところ、少し驚かれましたが、働く場所を都度変えるたびに申告する規則もなかったので反対はされませんでした。周囲に話を聞くと実はやってみたいと思っている人もいたようで、前例を作った格好です(笑)」

 とはいえ、持ち前の「慎重な性格」もあって、ノマドライフを始めるための準備には半年をかけた。貯金や持ち物等の身辺整理はもちろん、定住とホテル暮らしにかかる費用を比較して、ノマドライフのために納得して払える生活費のレベルを決めた。住民票は、本籍のある実家所在地に置いた。

 「脳と心の容量が増えた」

 実際にノマドライフを始めて約5カ月。これまでの生活に不便さはないのだろうか。

 「生活を始めて最初の1カ月くらいはいわゆる旅疲れのようなものもありましたが、今はもう旅が生活の一部になりました。ホテルに最低限の備品が揃っているので購入しなくても良いし、光熱費やインターネットも無料。それに掃除などの雑務からも解放されるので1人の時間をしっかりもてる。定住しているときに比べて生活音に悩むことが減り、睡眠の質も改善している気がします。何よりモノが少ないので災害に見舞われてもすぐ移動できるし、今はメリットしか感じません。ただ、ケガや病気をしたら大変なので、そこは気を付けています」

 ホテル代は1泊4000円以下を厳守。山本さんいわく、4000円を超えたホテルだと“コスパ”が気になり、逆にストレスの要因になるという。それ以外は基本的に食費と交通費しかかからないため、特に節約はしていない。

 最低限の荷物で、次の移動先は気分次第という身軽な生活。とはいえ、定住する家をもたないことに不安や孤独を感じることはないのか。

 「以前は家や物があることで、かえってそれを失うことへの不安があったように思います。今は、住む場所、持ち物、人間関係、仕事の場所が全てなくなり、『こうしなければならない』というしがらみがどんどん取り除かれたことで、心と脳に自分のことを考えるための容量が増えた気がします。実は1人の方が孤独を感じないということにも気づいてしまって、ますますシングルを謳歌しそうです(笑)」

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