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「カルビーに勝つにはこれしかない」湖池屋がカラムーチョという禁断の味に手を出したワケ (2/3ページ)

 「当時ポテトチップスのメインターゲットは女性と子供でしたから、逆に大人の男性に食べてもらうべく、辛い味付けで行こうと決めました。売り場もお菓子売り場でなくておつまみ売り場。原料がジャガイモなのは同じだけど、カットは薄切りスライスではなく、おつまみ感のあるスティックタイプ。値段も、150円でさえ高いと言われていた中で200円。さきいかなんかは大抵300円くらいしていましたから、それと比べれば別に高くない」

 「要するに、あらゆる面でポテトチップスっぽく見せたくなかったんですよ。『ポテトチップスだけど、ポテトチップじゃないもの』を作ろうと思ったんです。『カルビーのポテトチップス』と比較されないように」

 ■商品名も「どうせなら突き抜けよう」

 商品名は、辛い+ムーチョ(Mucho/スペイン語で「たくさん」の意)で「カラムーチョ」だ。

 「メキシコ風の商品名にしようという話は早い段階から決まっていました。その後デザイナーがいろいろと候補を考えてくれた中で、一番飛び抜けたものを選んだんです。『チリ◯◯』みたいなもっと無難な候補もあったけど、どうせなら突き抜けようと。パッケージに書かれている『こんなに辛くてインカ帝国』というダジャレも、会議で盛り上がった勢いで決まりました。今の湖池屋がやっていることと一緒ですが、とにかく特徴を出さないと埋もれてしまいますからね」

 ■スーパーはNG、コンビニで大ブレイク

 ところが、一番の取引先だったスーパーマーケットが取り扱ってくれない。理由は「お客さんからクレームが来るから」。辛いものはタブーの時代だった。

 「当時は『辛いものを食べると頭が悪くなる』なんて平気で言われていたんです。子供が食べたらどうするんだって。そもそも子供は狙ってません、おつまみ売り場で売りましょうって提案したんですけど、それでも駄目でした」

 「数カ月は全然売れませんでした。仕方がないから、当時店舗数を増やし始めていたコンビニエンスストアに商談に行ったら、取り扱ってくれたんです。コンビニは酒屋さんから転向する人が多かったので、『うちの店のお客さんだったら、こういうのが売れるかも』と。おつまみとして見てくれたわけです」

 これが見事にはまる。コンビニチェーンでの取り扱い1カ月目からお菓子ジャンルでトップの売り上げ。しかもその数カ月後には加工食品の中でもトップ。つまり、冷凍食品やレトルト食品やインスタントラーメンや缶詰などもあわせたカテゴリで「カラムーチョ」が最も売れた商品となったのだ。

 「もう、無茶苦茶な売れ方でした。一番コアのお客さんは大学生。コンビニを頻繁に利用する層ですね。結局、子供にも人気になっちゃったんですけど。おかげで年商が3年で倍になりました」

 ■落書きから生まれたヒーヒーばあちゃん

 快進撃を続ける「カラムーチョ」。1986年にはCMを流し始める。そこに登場したのが、以降トレードマークになる「ヒーヒーばあちゃん」というキャラクターだ。

 「もとは落書きだったんですよ。クリエイティブディレクターの西橋裕三さんという人が、打ち合わせ中に暇だったからと絵コンテの隅に描いたもの。それが面白いってことで、マスコットになっちゃった。マーケティングとかそんな偉そうなもんじゃない。とにかく個性的なものに仕上げていかないと、販売力も広告力もあるカルビーさんには勝てないと思って」

 「カラムーチョ」以降の湖池屋はブランド戦略を取るようになる。会社名ではなくブランド名を推すのだ。「湖池屋のポテトチップス」ではなく「カラムーチョ」という商品名を連呼する。その後の「スコーン」(87年発売)「ポリンキー」(90年発売)「ドンタコス」(94年発売)などのCMもそうだ。

 ■CMは「お金がないので」ブランド連呼型

 「商品名を連呼する理由は2つ。ひとつは、とにかく商品を有名にしたいから。もうひとつは、お金がなくて有名タレントさんを使えなかったから。当時の湖池屋は広告代理店にCMをお願いする際、新人さんにやらせてあげてくれって言ってたんです。新人で、優秀な人をって。大手がやるCMは有名タレントさんを使って、きれいなイメージで仕上げるじゃないですか。うちはそうじゃなくてインパクト重視。それで出てきたのが佐藤雅彦さんでした」

 佐藤雅彦、1977年電通入社。湖池屋の「スコーン」「ポリンキー」「ドンタコス」ほか、NEC「バザールでござーる」など著名なCMを多数手掛ける。電通退社後はプレイステーション用ゲーム『I.Q インテリジェントキューブ』を企画したほか、『だんご3兄弟』の作詞・プロデュース、NHK Eテレ『ピタゴラスイッチ』の監修も務める才人だ。佐藤が最初に手掛けた湖池屋のCMは、「ぱりぱりのり塩、やっぱりのり塩」が連呼される「コイケヤ のり塩」である。

 「初めてお会いした時から、すごく変わった人だなって。とにかく変で面白い。『ポリンキー』のCMでプレゼンしてくれたときなんて、その場で歌い始めるんですよ。それだけ才能のある方にやっていただけたのは、ひとえに運だと思います」

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