金融

「新生銀の株価は安すぎる」業界初の敵対的買収にSBIが絶対の自信を持つワケ (2/3ページ)

 ■新聞広告で新生銀行の株主に「エール」

 その自信は新生銀行がTOBに対して買収防衛策の導入検討を発表した直後の9月22日、日経新聞に掲載されたSBIの「質的転換で活性化する地域金融機関」と題する全面広告に如実に表れている。

 SBIの資産運用ノウハウを活用しながら、コスト削減を行い、21年3月期の純利益が黒字に転換した島根銀行をはじめ、福島、筑邦、清水、東和、仙台、きらやか、筑波の各銀行がSBIとの資本提携を機に収益がV字回復したか、棒グラフで示されている広告で、「新生銀行もSBIが買収すればこれ以上の収益改善が見込めると言っているようなものだ」(メガバンク幹部)と受け止められた。

 広告では「『一燈照隅、万燈照国』という言葉のように、各行が愛する地域を照らす『一燈』となることで、燈火は広がり、『万燈』となって、国全体をくまなく照らすでしょう」と、中国の古典に精通した北尾氏ならではの格言が躍った。新生銀行の株主へのエールだろう。

 北尾氏は以前から「新生銀行を(地方)銀行の銀行にしたい」と周囲に語っていた。「第4のメガバンク構想」では、SBIが過半を出資して持株会社を設立し、そこに全国の地銀やベンチャーキャピタル、運用会社などが出資して協力関係を築く。持株会社は参加する地銀等の業務システムやフィンテックなどのインフラや資産運用の受託ほか、人材の供給、マネーロンダリングの対応など幅広い商品・サービスを提供する、いわば「プラットフォーム」と言っていい。

 ■地銀の人材育成とフィンテック事業をサポートしてきた

 北尾氏によれば、「第4のメガバンク構想」は唐突なアイデアではないという。SBIと地域金融機関は過去5年にわたり親密な関係構築に努めてきた。北尾氏はそれを2つのフェーズに分けて説明する。

 まずSBIの金融商品やサービスを通じて地域金融機関の企業価値の向上に貢献したのが第1フェーズで、金融商品仲介業サービスで地域金融機関と連携した。また、地銀7行と共同で「マネープラザ」を設立し、地域住民の資産形成ニーズに応えているほか、資産運用の高度化として地域金融機関と共同出資の「SBI地方創生アセットマネジメント」を設立し、運用ノウハウの高度化や人材育成を図ってきた。

 次ぐ第2フェーズでは、地域金融機関に機能的なAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)基盤を低価格で提供することでフィンテック企業のサービスやシステムの導入をサポートしているほか、ジョイントベンチャーの設立等を進めている。また、事業承継ファンドの創設を通じ、地方の中小企業の事業承継ニーズに応えていると指摘する。今回の「第4のメガバンク構想」は、こうした一連の基盤の上に構想されたプロジェクトと位置付けられる。

 ■「第4のメガバンク構想は地銀のため」は本当か

 北尾氏によれば、「第4のメガバンク」は、「第4」と銘打っているものの、従来の3メガバンクとは一線を画する新しい発想・哲学に基づく「新メガバンク」であると豪語する。そのコンセプトは「社会課題解決型ビジネスモデル」であり、地方創生のためには地域金融機関の機能強化が欠かせないと説く。

 例えば、地域金融機関にとって重たい負荷となっているシステム開発については、プライベートクラウドサービスを共同持株会社のもとで、参加地域金融機関と共有することで、大幅なコスト削減が実現できると見ている。また、マネーロンダリング対応では、証券会社など35社を糾合した「証券コンソーシアム」を設立、本人確認を共同プラットフォーム化するなどの実績がある。

 代々の家業から中国の歴史・文化に精通する北尾氏は、論語を紐解く。「第4のメガバンク構想」も「世のため、人のため」であり、「地銀のため」と説く。利益は後でついてくるというのが哲学だ。しかし、証券会社そしてベンチャー業界という生き馬の眼を抜く熾烈な競争社会を生き延びてきた北尾氏が、ただ人のために尽くすからというわけではなかろう。そこには北尾氏一流の算盤勘定があるとみるべきだ。

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