金融

「新生銀の株価は安すぎる」業界初の敵対的買収にSBIが絶対の自信を持つワケ (3/3ページ)

 ■地銀が傘下に入れば、間接的に公的資金を注入できる

 鍵は政治との関係にある。「第4のメガバンク構想」の雛形は、「信用金庫業界の中央銀行といっていい『信金中央金庫』や農林系統金融機関の資産運用を一手に担う『農林中央金庫』のようなイメージではないだろうか」(地銀幹部)と受け止められている。

 実はこの構想は、自民党の金融調査会「地域金融機関経営力強化プロジェクトチーム」の提言とオーバーラップしている。金融調査会の会長である山本幸三氏は、プロジェクトチームの提言について、「地銀も信金中央金庫のような系統運用機関を創るべきだ。地銀のトップたちに提言し、どう対応するか見ている段階だ」と指摘している。

 だが、その裏に隠された最大のテーマは、地方経済のセーフティーネットという役割と見られている。なぜなら「第4のメガバンク構想」の最大の効用は、持ち株会社を通じて地銀が公的資金を受けられることにあるためだ。「共同持株会社を通じて傘下の地銀が経営危機に陥った場合に、間接的に公的資金を注入する受け皿ではないのか」(メガバンク幹部)との声も聞かれる。

 ■約3500億円もの公的資金をどう返済するのか

 一方、新生銀行はTOB期限までにホワイトナイトを見つけることが最大の眼目。だが、SBIが提示したTOB価格が高いことに加え、ホワイトナイトが成功しても、買収後の新生銀行の企業価値を早期に引き上げるのは容易なことではない。

 また、TOBの行方を左右するのは新生銀の公的資金の返済プランにかかっている。新生銀行は1998年から公的資金の注入を受け、1500億円を返したが、約3500億円が未返済となっている。

 2000年に当時の谷垣禎一金融再生委員長は公的資金の返済に関し、政府保有の新生銀株の時価総額が500億円を超えることが条件との趣旨の国会答弁を行っている。公的資金返済に必要な新生銀の株価は、市場価格を大幅に上回る1株7500円程度となる。公的資金を司り、新生銀行の約2割の普通株を所有する国(預金保険機構など)、金融庁の出方が最大の鍵を握る。

 ■新生銀行の存在価値そのものが問われている

 「敵対的だから良い・悪いという類いの判断ではなく、基本的には個々の案件の状況をしっかりと総合的に考えて、対象となっている企業の企業価値の中長期的な向上に資するか否か、利益相反はないかといった点などを総合的に考慮したうえで、個々の金融機関において個別に判断される性格のものだろうと考えている」

 冒頭に全銀協の髙島会長がこう指摘したように、TOBの帰趨は、ひとえにSBIが買収することで、新生銀行の企業価値が向上するかどうかにかかっている。SBIに代わるホワイトナイトについても同様である。新生銀行の企業価値が向上し、株価が上昇すれば公的資金返済への筋道も見えてこよう。

 大手証券による大手銀行へのTOBは異例の「敵対的なTOB」に発展した。証券会社が銀行を買収することも異例だが、皮肉にも今回のTOB最大の効用は、大手行で唯一、公的資金が残る新生銀行の企業価値を社会が再認識する契機になったことではなかろうか。問われているのは、新生銀行の存在意義そのものである。

 新生銀行がこのままの状態であり続けるほうが国民にとって有益なのか、SBIが買収するほうが有益なのか。それとも第三のホワイトナイトの手に委ねられるべきか。国民も公的資金を通じた有力なステークホールダーであることは忘れてはならない。

 

 森岡 英樹(もりおか・ひでき)

 経済ジャーナリスト

 1957年生まれ。早稲田大学卒業後、経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

 

 (経済ジャーナリスト 森岡 英樹)(PRESIDENT Online)

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