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「大企業多い割に不便」東京・港区の交通事情 電動車「グリスロ」で弱点カバーへ

SankeiBiz編集部
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 人口約26万人を擁する東京都港区で12日から、ゴルフカート型の電動車「グリーンスローモビリティ(グリスロ)」を使った公共交通サービスの実証実験が始まる。東急不動産とJR東日本がそれぞれ、浜松町周辺と高輪周辺の2地域でグリスロを予約制のバスのように運行。仕事での移動やちょっとした観光などに役立ててもらう。港区は鉄道や地下鉄の駅も多く、新たな交通手段は不要にも思えるが、地元では意外な不便さも感じられている。港区は実証実験の結果を中長期的な問題解決につなげたい考えだ。

時速20キロ未満で公道を走行

 「鉄道やバスでカバーできない地域を走る有効なモビリティだ」。岩崎雄一・港区街づくり事業担当部長は実証実験開始前日の11日に開かれた記者発表会でグリスロの意義を説明した。

 グリスロとは時速20キロ未満で公道を走る電動車を活用した移動サービスと車両の総称。実証実験は「浜松町・竹芝エリア」(12日~22日)と、「高輪・白金・白金台エリア」(24日~12月6日)の2地域で、運転手を含めて4人乗りの車両を使って行われる。港区が主体となり国土交通省からグリスロの実証調査支援事業として認定を受けた。

 浜松町周辺では竹芝のホテルインターコンチネンタル東京ベイ、JR浜松町駅前、港区役所、東京タワーなど6つの停留所を設定。竹芝では、2020年に東京ポートシティ竹芝が開業し、ソフトバンクが本社を移すなど、ビジネス拠点としての開発が進んでおり、グリスロが仕事での移動にも使われると期待する。

 一方、高輪周辺ではJR高輪ゲートウェイ駅や食品スーパー、区の高齢者向け施設など8つの停留所を設けた。このうち3~7カ所を巡る12のパターンでグリスロが走る。ルート上にはグランドプリンスホテル高輪や、庭園が有名な結婚式場「八芳園」もあり、ホテルのラウンジでの食事や庭園散策といったマイクロツーリズムを楽しめる仕掛けだ。

 グリスロの運行には浜松町周辺では東急不動産など、高輪周辺ではJR東日本などが協力している。利用者が専用アプリやウェブサイトなどで乗りたい便を予約する仕組みだ。受け付けはすでに始まっており、予約は浜松町周辺エリアで3~4割、高輪周辺エリアでは3分の2程度埋まっているという。

東西分断、多い坂道

 港区でグリスロに期待が集まる背景には、多くの人が行き交う都心に潜む交通網の弱点がある。そのひとつが東西を走る交通手段の少なさだ。港区内ではJRや地下鉄の各路線、幹線道路が南北に通るケースが多い。なかでも竹芝地区は3方向を海に囲まれる立地のため、「大きな会社が集まっている割には交通は不便だ」(東急不動産)という。グリスロはオンデマンド型の移動手段として重宝されるとみられている。

 また港区は内陸から海に向かって下っていく傾斜地で、坂道が多いという特徴もある。幹線道路から外れると道は狭くなりがちで、港区が運行するコミュニティーバスでカバーできない「交通不便地域」もあり、地元の高齢者にとって悩みの種だ。JR東日本は高輪周辺のルート設定について、「ちょっと出かけてみたい」という高齢者のニーズをくみ取る狙いがあると説明する。

ルート拡充には工夫も必要

 今月11日の記者発表会でモニターとしてグリスロに乗った港区の鈴木和子さん(80)は「乗り心地がよくて、(小さな車体なので)乗り降りも苦にならなかった。上り坂を歩くのは辛いのでグリスロが走るようになれば使ってみたい」と笑顔で話した。

 ただ、グリスロは時速20キロ未満のスピードしか出せないため、幹線道路を走る際には交通の流れを妨げることも考えられる。また、今回のルート設定では大きな交差点での右折は避けているが、将来的にルートを拡充する際には工夫が必要になる可能性もありそうだ。

 港区は今回の実証実験後のアンケートや利用データなどを踏まえ、今後の展開を検討したいとしている。

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SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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