鴻海とシャープ、注目される交渉の行方

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独自開発したシャープのサイクロン式掃除機。多岐にわたるシャープの特許群は鴻海の可能性を広げる

 台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業によるシャープ買収交渉の進展が注目されている。鴻海の狙いについて、シャープの液晶事業の再建、収益率の低い電子機器の受託製造サービス(EMS)からの脱皮など、さまざまな見方があるが、知財の視点では、違うものが見えてくる。

 特許情報をはじめ、さまざまなデータを高次元解析するアルゴリズムやツールの開発を行うVALUENEX(東京都文京区)は両社の分析リポートを作成中で、近く公開する。中村達生社長は「米国には企業の重要特許が必ず出願される。解析の結果、両社の技術領域は離れているためシナジー効果を期待するのは難しそうだ」と言う。シャープと米クアルコムとの提携では、シャープの保有特許群の中の空白領域にクアルコムの微小電気機械システム(MEMS)の特許群がぴったりとはまった。しかし鴻海の場合、両社の技術をつなぐための技術者間の意思疎通も簡単には進まないとみている。

 日本への特許出願を解析すると興味深い動きもあった。「シャープは広範な技術領域を持つが、鴻海は近年、各分野へポツポツ出願を始めている」と指摘する。買収を見据えシャープの技術領域を学び始めていると推察され、新たな技術者を採用している可能性もある。

 一方、「シャープ」の世界的な企業ブランドに着目しているのは企業買収などで知財評価を行うIP Valuation特許事務所(同港区)の松本浩一郎弁理士だ。「世界中の消費者の間で通用する企業ブランドを自力で一から構築するには、どんなに費用をかけても相当な時間がかかる」からだ。スピード経営重視の鴻海には難しく、ブランド構築の時間を買うわけだ。

 ただ企業ブランドも技術力があってこそ継続できる。シャープに特許や技術者は今も残っているのか。松本氏は「全ての特許権などは工場財団として抵当に入っているはずで、切り売りは容易でない。つまり売っていないと考えられる」と言う。問題は技術者だ。重要な発明をした技術者の特定は可能だが、その人物の在籍は企業にしか分からない。リストラなどで核となる技術者が抜けていれば研究開発力は落ちてしまったことになる。

 20日は鴻海の42回目の設立記念日。それまでに何らかの発表があるのではとの観測もあるが、どうなるのか。(知財情報&戦略システム 中岡浩)