松屋銀座で新海誠監督作品「君の名は。」展 絵コンテや企画書など20日まで展示デジハリでは新海誠作品の美術監督が美しい風景の秘密語る

 
「君の名は。」には美術が腕を振るって描いた美しい風景が登場する

 興行収入260億円の大ヒット作となった新海誠監督の長編アニメーション映画「君の名は。」。この映画の企画書や監督による絵コンテなど約300点が大集合した展覧会、新海誠監督作品「君の名は。」展が東京・銀座の松屋銀座で3月20日まで開かれている。映像を使って雰囲気を説明するビデオコンテの上映、作画監督によるレイアウト修正の展示などもあって、1本のアニメーション映画がどう作られているかが分かる、ファンにもクリエーター志望者にも役立つ展覧会となっている。

 展覧会場にはまず、「夢と知りせば(仮)-男女とりかえばや物語」と題された企画書が掲示されている。後に「君の名は。」へと発展していった企画。夢の中での入れ替わりや、組紐などがモチーフとして登場しており、完成した作品「君の名は。」の源流のようなものをうかがい知ることができる。

 続いて目に入ってくるのが、新海誠監督によって描かれた絵コンテだ。映画のストーリーを絵にして並べていったもので、瀧や三葉といった登場人物たちの表情や動き、背景となる場所などが細かく描かれていて、新海誠監督が映画をどのように設計していたかが分かる。アニメーションの絵コンテには、簡単な線でキャラクターの位置や表情、ストーリーの流れを指示したものもあるが、新海誠監督の場合は、映画をコマ割りして見せているように丁寧に描いてあって、どのような映像にしたいかを絵コンテ段階から固めていたことがうかがえる。

 こうした新海誠監督の絵コンテを受けて、アニメーターたちが原画を描いてアニメーション映画は作られていく。展覧会場には、スタジオジブリで活躍し、「君の名は。」では本編の作画監督を務めた安藤雅司氏、オープニングの作画監督を務めた田中将賀氏によるレイアウト修正が展示され、日本でもトップクラスに位置するアニメーターの技を間近に見ることができる。

 展覧会場に設置されたモニターでは、新海誠監督へのインタビューが流れていて、その中で安藤雅司さんらの仕事に対する姿勢に学ぶところがあったと話している。展示を見るだけでなく、エリアごとに置かれたモニターで作品や工程について語っているインタビューも、クリエーター志望者にとって参考になりそうだ。

 映画の中で重要な役割を果たす組紐を作るための組台、映画の中で展覧会に立ち寄った瀧が、糸守の風景画が撮られた写真をながめる場面を再現したコーナーなどがあって、映画の登場人物に近付いた気分になれる。展覧会場の最後には、音楽を担当したRADWIMPSの挿入歌を紹介するコーナーも。三葉が高校の教室で授業を受けているシーンに出てきた板書を再現した黒板も飾ってあって、ここだけは写真撮影が可能となっている。

 展覧会場には、ビル群をのぞむ東京の街並みや、湖のまわりに家々が並ぶ田舎の町が、現実よりも魅力的に映ると評判になった「君の名は。」の背景も、多く飾られている。こうした背景を美術監督のひとりとして担当し、映画のヒットに貢献したのが丹治匠氏。1月31日にデジタルハリウッド大学(東京都千代田区)の公開講座に登壇して、新海誠作品で手掛けた仕事を話した。

 アニメーションが作られる際に美術監督は、監督の意向を聞きながら舞台となっている場所を想定し、美術スタッフに描いてもらったり、自分でも描いたりして、作品世界の構築を行っていく。「君の名は。」では、新海誠監督が描いた絵コンテから場所や時間帯などを読み取り、そのシーンにぴったりの舞台を整えていった。

公開講座で例に挙げたのが、「君の名は。」の冒頭付近に登場する、横に湖があって奥に対岸が見える場所で、三葉と妹の四葉が階段を降りるシーン。丹治氏は、「絵コンテを元にラフに美術ボードを描いて、対岸はどのくらい近いのかといったことを検証しました」と振り返った。

 これに新海誠監督が、「現代日本の田舎としての実在感」というコンセプトを元に修正点を指示。石段の上にブロック塀が置かれ、奥に鉄のフェンスがある状況へと変えて、背景として詰めていった。美術ボードの段階では朝焼けならではの赤みがあったが、「朝のさわやかな田舎の風景なので、空の色とかを変えました。横から光が来ている感じも強調しました」。監督が求めるビジョンを探り、近づけていく対応力が美術監督という仕事には要求される。

 言われるとおりに仕事をすれば良いというものでもない。「今回の仕事では、できるだけ美術スタッフの創造性に頼りたいところがありました」と丹治氏。三葉の部屋で、女子高生らしく小物が置かれ、ドライヤーが転がされた様子は、丹治氏が仕事を頼んだ女性の美術スタッフが自分で考え、整えていったという。「みなが指示のとおりにやったら、豊かな映画にはなりません。想像していなかった良いものの総体が映画、アニメーションです。それが深さになると思います」。監督が構想する世界観から逸脱しない範囲で、クリエーターたちがそれぞれに発想したものを認め、拾い上げて束ねる能力が、美術監督という職には必要なようだ。

 「君の名は。」のヒットを受けて登場した新規ビジュアルの場合は、逆に美術監督の発想を超えた新海誠監督の感性が働いた。湖を見下ろす山上で、奥の方から差す太陽の光を浴びながら、三葉と瀧が向かい合っている構図。「完成したものを見たらすごく光とかが足されていて、思ったより派手になっていました」と丹治氏は指摘する。三葉と瀧の周囲には雲がたなびき、そこが輝いている。「太陽が後ろにあるのに、手前に光は来ないでしょう? 矛盾していますが美しければそれで良いんです」。

 新海誠監督の作品では、「雲の向こう、約束の場所」「秒速5センチメートル」で美術を担当し、「星を追う子ども」では美術監督を務めた丹治氏。「君の名は。」を経て次にどのような世界を創造していくのか。新海誠監督の次回作ともども期待がかかる。