座席で化粧、音漏れ… 鉄道各社“迷惑マナー”対策で試行錯誤
視点□産経新聞社正論調査室・工藤均
マナーに物を申しても仕方がない。わかっていても、公共の空間である駅、電車内の迷惑や不快といわれる行為は気になることが多い。鉄道各社ではアナウンスやポスターなどで注意を呼びかけているが、事はマナー。改善できていないのが実情だ。
こんなデータがある。全国の私鉄など72社が加盟する日本民営鉄道協会(民鉄協)が毎年、調査している「駅と電車内の迷惑行為ランキング」。2016年度の結果によると、1位は8年連続で「騒々しい会話・はしゃぎまわり等」。以下、「歩きながらの携帯電話・スマートフォンの操作」、「座席の座り方」が続き、「車内での化粧」が7位にランクされている。
各社の対策といえば、危険な行為以外は乗客に配慮した「お願い」的な要素が強く、注目を集めきれていないように思う。
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東急電鉄が昨年9月から今月まで展開中のマナー向上広告「わたしの東急線通学日記」シリーズが大きな反響を呼んだ。東急線沿線に住み始めた主人公の女性が乗車マナーに触れ、メッセージを発する企画で、動画を車内の扉上の液晶モニターで1週間放映。同社のホームページでも配信した。
とくに、第2弾の「車内化粧篇」(昨年10月)では「都会の女はみんなキレイだ。でも時々みっともないんだ」のメッセージを発信した。これが「公共の場所にプライベートを持ち込む逸脱行為」「粉が飛ぶなど実害がある」「どこがマナー違反かわからない」「女性蔑視だ」など賛否両論が飛び交うきっかけになり、「みっともない」の強い文言も拍車をかけてネットが炎上したほど。主人公が化粧中の女性に向かって「マナーダンス」という振り付けをしながら、という内容も関心を集めた。
第3弾の「整列乗車篇」(同11月)は「大人になると、目指すゴールは空席ですか?」、今年1月の第6弾「音漏れ篇」では「お洒落な人がいた。音漏れがダサかった」を展開。20日からは最終の第8弾「駆け込み乗車篇」もスタートした。鉄道CS課の山田久美課長補佐は「昨年度まではインパクトが薄かった。身近に感じられるストーリー性のある内容にした」という。
化粧を含む車内のマナーについて、「社会的迷惑の心理学」などの著書がある岐阜聖徳学園大の吉田俊和教授(教育心理学)は「大勢の人が不快になっていることへの対策として正当性がある。管理者の一つの『見識』。社会的な使命だ」。また、聖心女子大人間関係学科の菅原健介教授(社会心理学)は「快適な空間を提供しようと管理している以上、正しいこと」としたうえで、「『みっともない』など、言い方は検討すべきだ」と指摘する。
時にははっきりと「NO」と言うことが重要。著名人を積極的に使い、明確なフレーズで訴える。人が集まる場所に出向いてPRするのもいい。奇抜な広告や動画などの“劇薬”も必要だ。乗客の意識改革は当然だが、会社側に(1)効果が期待できない(2)すべての人が迷惑していない(3)反発を買うから-の意識があっては変わらない。
東急の展開は管理者の姿勢として一つのヒントになったといえよう。広報課の森田創課長も「いろいろな意見があったことは、よかったのではないか」と話す。
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各社の反応は、「どこまで伝えるかの線引きがむずかしい」(東武鉄道)、「これまでも関心を持ってもらうための対策は講じている」(東京メトロ)など、インパクトのある対応には今のところ、消極的だ。
民鉄協によると、車内での化粧については「悪化した」「以前と変わらない」の合計が70%。7割が改善していないと感じていたことになる。歩きスマホに至っては、63.5%が「悪化した」と答えていた。何よりも、迷惑と思う声が多く、依然として改善されていない実態があるのだ。
森田課長は「今回は改善すべきところはあった。来年度以降もお客さまの反応を見ながら、試行錯誤で考えていく」という。
各社は関心を持ってもらうことにこだわってほしい。うるさがられても、たとえば飲食店のように、「もうあの店(電車)には行かない(乗らない)」とはならないはずだ。「公共輸送機関」としての立場を考えれば、責務と言っても過言ではない。
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