タイの憲法裁は、法令の違憲審査権にとどまらず、政党の解党や国会議員の身分までをも剥奪できる強い権限を持つ。憲法学者らからは「立法や行政を超越した機関」と称され、時に違憲・無効判決によって政権を倒す手法は「司法クーデター」とも呼ばれた。反タクシン派としては譲れない最後の一線が、憲法裁を頂点とするタイ独特の権力システムだった。
2月に実施された総選挙は現在、投票が済んでいない選挙区で補充投票が行われているが、定足数に達する見込みはない。そもそもボイコットした民主党に当選議員はいない。一度は選挙無効の訴えを退けた憲法裁だが、いずれかの時点で選挙の無効を宣言しなければ反政府派に勝ち目はない。それだけに憲法裁の動向が今後の焦点となるのは間違いない。
また、憲法裁と同様に強い権限を持つ独立機関の国家汚職防止取締委員会の動向にも注意が必要だ。同委員会は政府の「コメ担保融資制度」をめぐってインラック首相らの罷免を上院に求める手続きを進めている。同委員会の委員も上院によって選出されている。タイの政治混乱は力の対立から司法や上院に舞台を移し、静かな神経戦に入ったようだ。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀晋一)