持久走力の獲得は、人類とチンパンジーとの分岐の後に起こったと考えられる。弓矢や投槍器をまだ発明しておらず、槍(やり)先の石器さえ持たない旧石器人類は、持久狩猟で食料を得ていたかもしれない。
その持久走力を生かし、獲物をしつこく追いかけて高体温症を誘発し、獲物の消耗を待って仕留めるわけだ。持久狩猟は、今でも熱帯で乾燥環境において、広く見られるという。
この議論を聞いて目からうろこが落ちた気がした。マラソンや駅伝の中継をなぜ長々と見て飽きないのか、分かったような気がする。人間性の本質がそこにあるからだ。折から、夏の高校野球が始まっている。チンパンジーにバットを持たせて野球を教え込めば、すごいバッターになるかもしれない。しかし、夏の甲子園では活躍できないだろう。炎天下で数時間駆け回って平気なのはヒトだけなのだ。
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【プロフィル】戎崎俊一
えびすざき・としかず 独立行政法人理化学研究所戎崎計算宇宙物理研究室主任研究員 東大院天文学専門課程修了、理学博士。東大教養学部助教授などを経て、1995年より現職。専門は天体物理学、計算科学。