【人工知能時代を生きる】チェス対戦で機械と共に理解探求 (1/2ページ)

2016.3.26 05:00

パソコンを使ってチェスの指導をする小島慎也さん(右)=2月、東京都渋谷区

パソコンを使ってチェスの指導をする小島慎也さん(右)=2月、東京都渋谷区【拡大】

 ■勝てないのは「当たり前」

 1997年5月11日、当時のチェス世界王者、ガリ・カスパロフ氏は、米IBM製のチェス用コンピューター「ディープブルー」に敗れた。

 「人類代表が負けた」。88年の全日本チャンピオン、鈴木知道さん(49)=東京理科大教授=は、当時在籍していた東大の研究室で1人、パソコンの画面を呆然(ぼうぜん)と見詰めた。

 チェスはその奥深さゆえ、人間の知性の象徴とされてきた。「コンピューターに負けるようなゲームに価値はないと思われ、チェスが衰退してしまうのではないか」。不安が脳裏をよぎった。

 「この駒の動きは…」。全日本チャンピオン5度の小島慎也さん(27)は今年2月、小学6年の男子の東京都内にある自宅でチェスを教えていた。個人指導を中心に、チェスに関する仕事だけで生計を立てる。欧米ほどチェスが盛んでない日本では異例だ。

 カスパロフ氏の敗北時は小学生。自宅のパソコンでチェスを覚え、コンピューターをライバル視する考えはない。「人より強いのは当たり前だから。走って車と勝負する人がいないのと同じ」

 スマートフォンのソフトでさえ人を上回るという現在も、チェスの魅力は変わらないと思っている。ゲーム自体の面白さ、トッププレーヤーのプライドをかけた戦いが生むドラマ、盤を通じた交流の楽しさ…。いずれもコンピューターと人の優劣とは関係ないからだ。

 かつてチェスの将来を案じた鈴木さんは今、達観したように話す。「チェスは人にしか極められない特別なものではなかった。むしろ、より深く理解できるようになってきたのはコンピューターのおかげでもある」

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