アリ氏の追悼式には星条旗とともに五輪旗が掲げられた=10日、米ケンタッキー州・ルイビル(AP)【拡大】
2012年ロンドン五輪開会式で五輪旗入場の一翼を担ったのは記憶に新しい。
五大陸から選ばれた人権活動家ら8人が運び役として登場、彼らの行進の途中で待ち受けていたのはアリ氏だった。妻に付き添われながら、ほんのわずかとはいえ、五輪旗に触れると、会場から大歓声が巻き起こった。テレビ中継を通じても感動が伝わってくるシーンは永遠に語り継がれるだろう。
五輪憲章のオリンピズム(根本原則)の一節を紹介する。
「オリンピズムの目的は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会を奨励することを目指し、スポーツを人類の調和の取れた発展に役立てることにある」
人種差別撤廃、ベトナム戦争反対を訴えたスーパースターの生涯はオリンピズムそのものである。それだけ、思い入れが強かった。言葉だけに終わらせず、実際に行動で示してみせたことに多くの人が共感し、彼の言動を支持した。
◆情けない疑惑次々
翻って、われわれの周囲をみると、情けなくなってしまう。
20年東京五輪・パラリンピックは新国立競技場建設計画、エンブレムの白紙撤回、招致不正疑惑とトラブルが続き、ここにきて、舛添要一都知事の政治資金私的流用問題が明らかになった。
連日、厳しい追及を受けながらも、知事は8月21日のリオデジャネイロ五輪閉会式のフラッグ・ハンド・オーバーセレモニー(五輪旗の受け渡し)に次期開催都市の首長として出席する構えを崩していない。
オリンピック・ムーブメントに携わる者は崇高な精神を持ち、清廉潔白を求められる。
度重なる公私混同を指摘されている“渦中の人”が五輪旗引き継ぎという象徴的なセレモニーの主役を務めるとは、皮肉なシナリオである。
その瞬間を正視できる都民はどれくらいいるのだろうか。自らの出処進退を決めるときが近づいている。