
タイ王国陸軍のティーラチャイ司令官(前列左)と次期司令官と目されるピシット参謀総長(同右)=タイ王国陸軍提供【拡大】
◆政権不安の可能性も
陸軍内の人事に軍政が神経質になるのも、歴史上、人事を契機に内紛やカウンター・クーデターの発生が少なくなかったためだ。
実動部隊を持ち、組織系統では上位にある国軍司令部をも凌駕(りょうが)するタイ王国陸軍だが、内実は一枚岩ではない。立憲革命の流れを引くピン・チュンハワン元帥が率いた最大派閥ラチャクルー派が、サリット司令官(当時、以下同)のクーデターによって中枢を追われたケースもある。1980年代に司令官のまま政権を担ったプレーム首相(現枢密院議長)の場合も同様で、8年間の長期政権の後に陸軍内の抵抗や王室の難色などで退任を余儀なくされた。後任に就いたのは、かつてのラチャクルー派を率いたピン元帥の長男チャートチャーイ民族党党首だった。
プラユット首相は「仮に新憲法案が否決されても来年中の総選挙は必ず実施する」と言明している。だが、そのためには事実上の勅令に等しい暫定憲法44条(非常大権)を発動するほかに道は少なく、政権不安を引き起こす可能性さえある。ましてや、司令官人事と時期が重なればなおのことだ。
軍政は投票日の直前まで国民に対する啓蒙(けいもう)活動を続けるとする。一方で、水面下では各派のバランスを考慮に入れた陸軍人事を遂行しなければならない。もう一つの「難問」が思わぬ波紋とならぬよう、プラユット首相の手腕が問われている。(在バンコクジャーナリスト・小堀晋一)