この現象は原爆開発時から予想されていたが、50年代の核実験競争を通じて米ソ両国が確認した。他の核保有国や北朝鮮はこの現象を把握している。
広島市国民保護協議会専門部会の報告書(2007年)は、米国中央部のオマハ上空500キロメートルで核爆発があれば「(米)国中の送信機器、送電システム、コンピューター、レーダーなどが、落雷の100万倍ともいわれる急激な電圧上昇に直撃されて機能不全に陥る」と指摘する。
防衛省防衛研究所の研究〈一政祐行主任研究官「ブラックアウト事態に至る電磁パルス(EMP)脅威の諸相とその展望」/『防衛研究所紀要』16年2月号〉は、EMP攻撃が「広域にあらゆる電力・通信インフラが不可逆的にダウンしていく大停電現象」の「ブラックアウト事態」を招くと予想する。
国中の発電所や送電網が機能不全となる。現代の輸送車両、通信機器で電子機器・回路なしで動くものはまずない。輸送網と通信網は止まり、電力、飲料水、燃料の供給も止まり、商取引は麻痺する。日本でいえば明治初期や江戸時代のインフラ状況に戻ることになる。社会システム崩壊によって、飢えが襲うだろう。
高層大気圏でたった一発の核兵器が爆発すれば、米国のような大陸規模の国家も社会が崩壊するような危機に見舞われる。
独裁者が核弾頭を搭載した弾道ミサイルを使って、高高度核爆発によるEMP攻撃の誘惑にかられることはないのか。国家でなくても、国際テロ組織が気球や航空機で同様の攻撃、奇襲を試みたらどうなるか。