【高論卓説】古代ローマから安保を考える 日本はカルタゴの二の舞い避けよ (2/3ページ)

 こうした現状から、「トゥキュディデスの罠」という言葉をよく聞く。母校ハーバード大ケネディスクールのアリソン教授の造語だが、トゥキュディデスが古代ギリシャのスパルタとアテネの覇権争いを『戦史』で著したように、覇権国(米国)と急伸する新興国(中国)の疑心暗鬼が、望まない軍事衝突を招く可能性が高いことを表す。

 トゥキュディデスの死から約250年後の前146年、『歴史』の著者として名高い同じギリシャ人のポリビオスは、ローマ軍の攻撃で7晩燃え続けたカルタゴの滅亡を現場で目撃した。

 第二次ポエニ戦争時、途中まで善戦しつつローマに敗れたカルタゴは、海外領土を失い、ローマの軍事的支配下に入り、50年間一定の賠償金を払うことになったが、比較的寛容な条件下、かなりの経済復興を果たした。

 ただ、台頭する隣国ヌミディアの度重なる国境侵害に対しては、自由に軍事行動が取れない中、直接対決にも惨敗するなど有効な手が打てなかった。多少同情的だったローマも、シリア・ローマ戦争時に、兵糧の提供のみを申し出たカルタゴよりも、兵力提供まで申し出たヌミディアに信頼を持つようになったとされる。最終的には第三次ポエニ戦争でローマに滅ぼされる。

 当時とはさまざまに事情が異なるが、ローマをアメリカ、カルタゴを日本、ヌミディアを中国に置き換えると背筋が寒くなる。私はこれを「カルタゴの罠」と呼び、二の舞いを避けるために取るべき方策は大きく3つだと考えるが、紙幅が尽きた。「大義なき打算の衆院解散」がささやかれる中、せめて、安保や憲法9条改正を軸とした国民的議論を期待したいと思う。

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