【高論卓説】ノーベル物理学賞、湯川秀樹の実父 (2/3ページ)

 さらに、地層の中に過去の海底地滑りの跡が残っていることを指摘。小川のこの議論は、海底地滑りを津波の真の原因と指摘した点で、世界的にみても嚆矢(こうし)となるものである。独創的かつ正鵠(せいこく)を射た鋭い議論だ。

 一方、東京帝国大学の物理学者、寺田寅彦も同年に「大正12年9月1日の地震に就いて」という論文を雑誌「地学」に発表した。この中で寺田は、相模湾の水深変化の原因を議論している。気象学者、ウェゲナーの大陸移動説などの諸説を取り上げて議論しているが、結局はこれほど大きな水深変化が海底でのみなぜ発生したかについては要領を得ない議論となっている。

 論文の付記において、小川の説も紹介している。「種々有益な啓示を受けた」としながらも、「浅い処が深くなり、深い処が埋もれたといふ明白な結果になって居ないのである」などと歯切れの悪い論評に終わっている。この後、海底地滑りの発生と津波の原因に関する議論は途絶えてしまい今日に至っている。

 一方、小川が先駆的に唱えた地滑りの跡の地層は「ブーマ・シーケンス」という特徴的な層理構造を持つ砂岩泥岩互層の成因論として定着している。海底地滑りでできたはずの砂岩泥岩互層は、日本の太平洋側海岸に普遍的にみられるが、それを現代日本で起こる津波と関連付けて考える研究者が小川の後、最近になるまで現れなかったのは大変残念なことだ。

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