【第27回地球環境大賞】大賞に積水ハウス(3-1)

「2050年に脱炭素を目指すなら、今すぐ環境配慮型住宅やスマートタウンの開発に取り組まないと間に合わない」と語る積水ハウス常務執行役員の石田建一氏
「2050年に脱炭素を目指すなら、今すぐ環境配慮型住宅やスマートタウンの開発に取り組まないと間に合わない」と語る積水ハウス常務執行役員の石田建一氏【拡大】

 ■マイクログリッドで電力を地産地消

 第27回「地球環境大賞」(主催・フジサンケイグループ)の大賞に、低炭素で災害に強く、地域活性化にも貢献する「東松島市スマート防災エコタウン」(宮城県)を同市と共同で整備した積水ハウスが選ばれた。太陽光発電設備をタウン内に設置し、その電力を自前の送配電線(マイクログリッド)を通じてまち全体に供給する。こうしたエネルギー地産地消モデルは日本初という。同社常務執行役員(環境推進部長兼温暖化防止研究所長)の石田建一氏(60)に“まちづくりの極意”を聞いた。(月刊ビジネスアイ エネコ編集長 本田賢一)

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 ■積水ハウス、宮城県にスマート防災エコタウン

 □積水ハウス 環境推進部長兼温暖化防止研究所長 常務執行役員・石田建一氏

 --東松島市スマート防災エコタウンの概要は?

 「東松島市が2011年3月の東日本大震災を受けて整備し、積水ハウスが建設に協力した災害公営住宅※1(戸建て住宅70戸、集合住宅15戸)と、周辺の4病院、公共施設、集会場を自前の送配電線でつなぎ、タウン内の調整池に建設した太陽光発電設備(出力400キロワット)や、集合住宅、集会場の屋根に設置した太陽光発電設備(計60キロワット)で発電した電力を供給します。太陽光発電の余剰電力を蓄え、必要に応じて放電する大型蓄電池(容量480キロワット時)も設置し、エネルギー管理システムで最適制御して電力を供給しています。電力の不足分は、既存の電力網から購入しますが、将来は地域のごみ焼却発電所やメガソーラー(大規模太陽光発電所)のクリーンな電力を既存の電力網経由で供給する計画です。災害などの非常時はバイオディーゼル発電機(出力500キロボルトアンペア)も稼働させ、最低3日間は通常の電力供給ができるようにしています。また、3日目以降は発電機の燃料がなくなった場合にも太陽光発電と蓄電池により最低限の電力供給が可能です」

  ※1 災害公営住宅=災害で家屋を失い、自力で住宅を確保することが困難な被災者のために、地方公共団体が国の補助を受けて供給する住宅。

 --エコタウンの電力自給率は?

 「季節による変動はありますが、年間平均で3割ほどです。エコタウンの電力需要が少なく、太陽光発電の発電量が多い春と秋は、エコタウン内の太陽光発電で電力需要をほぼ賄っています。一方、空調で電力需要が伸びる夏と冬は自給率が下がります」

 --エコタウンを開発するきっかけは?

 「積水ハウスグループは08年、住まいからの二酸化炭素(CO2)排出ゼロを目指すことを宣言し、いち早く脱炭素経営に舵を切りました。翌09年、快適に暮らしながらCO2排出量を1990年比50%以上削減できる環境配慮型戸建て住宅『グリーンファースト』を発売し、2013年にはZEH※2『グリーンファースト ゼロ』の販売を開始しました。また、11年3月に発生した東日本大震災の半年後には、世界初の3電池(太陽電池・燃料電池・蓄電池)の組み合わせにより、非常時に自動的に電力を確保できる『グリーンファースト ハイブリッド』を発売。さらに、12年には『安全・安心』『健康・快適』『エネルギー』『見守り』をキーワードに掲げた日本初のスマートタウン『スマートコモンシティ明石台』をまちびらきしました。その後、『スマートコモンシティ』を全国16カ所に普及してきました。そのさらに先を見据えたまちづくりが東松島市スマート防災エコタウンです」

 ※2 ZEH=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス。住宅の断熱性能を高めたり、電力消費量の少ない家電を導入したりして徹底的な省エネを進めると同時に、太陽光発電などの創エネ設備を導入し、一次エネルギー収支をトータルでゼロにした住宅のこと。

 --先を見据えたと言いますと

 「一つは、地域経済の活性化を見据えたまちづくりです。日本ではいま、大半の原子力発電所が停止し、それを代替する火力発電所の燃料を海外から余分に買っており、巨額の富が海外に流出しています。こうした構図は、市やまちといった地域レベルでも同じで、地域で使う電力は域外から買っているため、地域の富はずっと流出し続けています。逆に、もし地域がエネルギー的に自立することができれば、富の流出を防げることになります。地域に富が蓄積していけば、地方活性化に資することになります」

 「もう一つは、再生可能エネルギーで発電した電力の固定価格買い取り制度(FIT)の国民負担※3が増大し、社会問題になっていることを見据えました。FITに頼ることなく再エネを普及させるモデルが必要で、エコタウンでは、太陽光で発電した電気を売電することなく、タウン内で自家消費します。また、宮城県中部に位置する東松島市は、大震災時に停電が1カ月ほど続きましたので、自然災害への対応も重要なポイントでした。当社は、早くから災害に強い住宅を提供し、当社工場もいざというときは災害拠点になるよう整備してきました。その技術やノウハウがエコタウンに活かされています」

 ※3 固定価格買い取り制度は、太陽光、風力などの再エネで発電された電気を、国が定める固定価格で一定期間、電気事業者に買い取りを義務づけるもの。電気事業者は、買い取り価格の一部を月々の電気料金に上乗せし、需要家から徴収している。この再エネ賦課金(国民負担)は、制度が始まった12年度が約1300億円だったが、16年度には約1兆8000億円に増大しており、30年度には3兆7000億~4兆円に達する見通し。

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【プロフィル】石田建一

 いしだ・けんいち 東京生まれ。工学博士。一級建築士。1985年、工学院大学大学院工学研究科建築専攻(博士課程)を修了後、積水ハウス入社。東京設計部に配属され、商品開発部課長、ICT推進部長を経て、2006年温暖化防止研究所長。11年環境推進部長と同研究所所長を兼任。12年執行役員、16年常務執行役員。01年には自邸で環境・省エネルギー住宅賞の国土交通大臣賞受賞。