【地球を掴め国土を守れ】技研製作所の51年(3)環境企業から国土防災企業に転換

インプラント構造とフーチング構造
インプラント構造とフーチング構造【拡大】

 平成23年の東日本大震災により東北沿岸は海岸堤防が無残に破壊された。

 たとえば、工期約30年、約1600億円かけて建造された岩手県釜石市の湾口防波堤(最大水深63メートル)は、総延長1960メートルのうち約1500メートルにもわたり損壊した。

 従来工法「フーチング工法」による堤防は、地盤の上にコンクリートで固めた堤体を載せただけの構造。地震による地盤の液状化や、海水が壁となって押し寄せる津波には耐えられなかった。

 津波は、地震によって生じる海底の巨大なプレート(岩盤)の跳ね上がりで発生する。海底からプレートにより突き上げられた海水はジェット機なみの速さのエネルギーを有する。東日本大震災の大津波では、沿岸部でも時速100キロの記録が残っているほどだ。

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 冒頭でも述べたように、大津波による海岸堤防の被害は大きかった。大震災から7年たった今年3月11日の時点で、岩手と宮城、福島の東北3県の海岸堤防の復旧・復興状況が、約600地区のうちまだ約30%にとどまっていることがその規模の大きさを物語る。

 震災後まもなく、惨状を目の当たりにした技研製作所社長の北村精男(あきお)は、社内に「国土防災技術本部」を立ち上げた。

 岩手県山田町の水門工事現場で「インプラント工法」(杭(くい)を連続して地中深く打ち込む)の杭の壁が水門を守ったことで、地震や津波に対する工法の有効性を確信する一方、「南海トラフ地震など次の脅威への備えは一刻も猶予がならない」と考えたのだった。

 同時に北村は、同社の新工法開発部に対し、鋼管を回転させながら堤防に杭を打ち込む重機「ジャイロパイラー」に使用する杭の直径を、それまでの1・5メートルから2・5メートルに太くするよう命じた。

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 北村は「これまで長年、現場で得てきた勘から、東日本大震災のような大津波の脅威に耐えうるには、強力な手を打つべきだと考えた」と、当時を振り返る。

 「国民の視点に立つ建設業界の実現」を目標に掲げる技研製作所の指揮官は、普段から社員に対し、「地球を守り人々を幸せにする発明こそ使命」「必要は発明の母」と説き、新技術創出を促している。

 杭打ち機「サイレントパイラー」の開発により、杭打ち工事無振動・無騒音化した技研製作所は「環境」企業を標榜(ひょうぼう)してきたが、大震災は、同社を「国土防災」企業に変えたのだ。=敬称略

 首都直下、南海トラフの地震や多発する水害の危機が迫る中、独創的な工法が注目を集める「技研製作所」は創業50年を迎えた昨年、東証1部上場を果たした。この連載では、北村精男氏が一代で興した同社が、世界企業として発展してきた半世紀を追う。