
改葬のため実施される遺骨の取り出し作業(メモリアルアートの大野屋提供)【拡大】
■撤去費のみで20万円前後
「お墓の引っ越し」にはどのような費用がかかるのだろう。石材店への取材に加えて、各業者がホームページに公開する値段を調べてみた。どうも、業界を統一した値段体系や項目というものは存在しないようだ。
費用は大きく分けると、「撤去費」+「新墓費」+「宗教費」で構成される。このうち、撤去費は、総じて20万円前後と表示しているところが多いようだ。もちろん、面積が広く、作りが込んだお墓であればさらに費用がかかることになるし、小さなお墓であれば10万円以下で済むこともあるだろう。寺院や霊園によっては「指定石材店」制度を設けており、特定の石材店しか作業ができないようにしているところもある。事前にいまある墓の管理者に確認が必要だ。
引っ越しは、(1)石ごと引っ越す(2)新しく墓や納骨堂を契約する(3)将来、承継者が途絶えた際に、無縁墓にはならず寺院が供養する「永代供養」の契約をする…といったあたりが選択肢になる。石ごと引っ越せば、重さや距離によって運搬費がかかるし、引っ越し先で区画の使用料や、設置費用がかかることになる。また、新しい墓や納骨堂を契約するにしてもそれ相応の費用がかかることになる。
お墓の引っ越しが増えてきたのに呼応して、「離檀(りだん)料」という言葉が広まりつつある。古い墓が寺にあった場合、檀家(だんか)を抜けるための布施とされる。寺の運営費が減ることへの補填(ほてん)の意味がある。布施であるので、決まった額はない。墓石店に相談すれば、地域や寺の相場を教えてくれることが多い。
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■石碑、外柵も移設
千葉県内に住む哲男さん(仮名、60代)は、中国地方の郷里で死去した父の遺骨を埋葬せずに自宅に持ち帰った。父は1人暮らしで、郷里の菩提(ぼだい)寺の墓に納骨すると、哲男さんがお墓参りに行きたくても、千葉からはなかなか行けないというのが実情だ。そこで哲男さんは改葬を決意。菩提寺に相談すると、離檀はすんなり認められ、千葉県内の公営霊園に引っ越しをすることになった。
ところが菩提寺には、父が建てた墓があり、父はその墓をとても気に入っていた。そこで、墓石はもちろん、石碑、外柵を含めて移設することにし、業者に輸送、移設を委託した。寺院や民間霊園の中には、指定の石材店しか出入りを認めないところもあるが、許可が出た。
引っ越し作業は、抜魂供養と撤去、輸送、霊園での設置にそれぞれ1日ずつ要した。郷里の墓は約5平方メートルの広さだったが新しい墓は約4平方メートル。やや狭くなったが設置でき、無事に納骨を済ませることができた。引っ越しに先立ち現地調査が重要になる。境内への重機搬入は可能か、墓石にひびはないか、長距離輸送に耐えられる状態かなどのチェックが行われる。
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■古い供養塔、土葬掘り起こし…
「以前から菩提寺と反りが合わないことがあった」という東京・多摩地区に住む山口さん夫婦(仮名、ともに60代)は、離檀、宗旨変えを決断。先祖代々の墓を同じ多摩地区の民間霊園に移すことにした。
しかし問題はまだあった。墓石のほか十数基もある先祖代々の供養塔。相当に古く、外観はボロボロ。同じ市内とはいえ、輸送などの作業中に、割れたり砕けたりする恐れがあった。業者は作業員5人を配置。1基ずつ毛布にくるむなど、細心の注意を払って2日がかりで全て無事に移設した。また元の墓には、3人が土葬されているといわれていたが、業者の担当者らが掘り起こしたところ、確かに3人分の遺骨を確認。埋葬は焼骨であることが求められるため、業者は骨を1本ずつ拾い、火葬場に持ち込んだ。
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■疎遠だった寺に手紙で交渉
東京・多摩地区に住む久江さん(84)=仮名=は、夫の死後、遺骨を自宅で保管していた。夫の実家と菩提寺は近畿地方。墓参するには遠く、納骨する気になれなかったという。だが、自身も高齢となり、夫の七回忌をきっかけに多摩地区に墓を購入し、納骨することにした。
悩みは、疎遠になっていた寺との交渉。改葬する意向を伝えなければ何も始まらないが、「どう話をしたらいいか分からない…」と、踏み出せずにいた。事情を聴いた業者は「では、お寺に手紙を書くことから始めましょう」と提案。改葬したい理由、計画を記した文案を担当者が作成し、久江さんはこれを参考に自筆の手紙をしたためた。
久江さんと寺との間で交渉がまとまり、担当者が現地のお墓から夫の両親と妹の3人分の遺骨を取り出し、自宅に運んだ。このとき、骨壺が1つ割れていたため、新しい骨壺に移し、白布で包んで運んだという。久江さんの意向で墓石は撤去することになり、古い墓石は抜魂供養をしたのち処分した。
久江さんは「改葬したいと思いながらも、高齢ということもあって、なかなか行動に移せなかった。本当に助かりました」と感謝している。
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■東北から埼玉へ 墓石磨き直しも
埼玉県に住む義元さん(仮名、50代)は、20代の息子と相談し、東北地方にある実家の墓を、墓石ごと埼玉県内の霊園に移すことにした。母が死去して以来、郷里に身内はなく、十分な墓参りもできずにいた。
改葬について、菩提寺の了解を得ることができ、担当者が現地調査に入った。すると、墓石に多数の傷が見つかった。2011年の東日本大震災で墓石が倒れたという。墓石の傷はそのときについたものと考えられた。
そこでいったん東京都福生市にある業者の資材センターに墓石を運び、墓石のクリーニングを行った。傷は消せないが、表面を磨き直し、光沢が戻った墓石を埼玉の霊園に設置し、納骨した。(『終活読本ソナエ』2018年新春号から)