【生かせ!知財ビジネス】防災科研、データ利活用による「減災」に挑戦

データ利活用に挑戦中の防災科研・気象災害軽減イノベーションセンターの中村一樹センター長補佐
データ利活用に挑戦中の防災科研・気象災害軽減イノベーションセンターの中村一樹センター長補佐【拡大】

 記録的豪雨により、各地で甚大な被害が発生した。災害予測・防災対策が喫緊の課題となる中、IoT(モノのインターネット)時代の知財とも言われる「データ」の利活用に注目が集まり始めている。地震、気象、土砂、氷雪などによる各種災害に対する防災の公設研究機関である防災科学技術研究所(茨城県つくば市)は現在、日夜、収集される観測データを利活用することで、減災につなげるための新たなビジネスモデルの構築、実現に取り組んでいる。

 活動の中心は2016年、防災科研に設立された気象災害軽減イノベーションセンターだ。企業を中心に自治体、研究機関などの法人会員133機関と個人会員115人で構成される「気象災害軽減コンソーシアム」を立ち上げ、データ利活用に関する社会・企業ニーズ、ビジネスモデル、形式、予測技術、情報技術、法・制度、契約、連携などについての勉強会、研究、検討を始めた。

 例えば同コンソーシアム会員向けに今年7月、セミナー「防災科研の知 ~気象のデータ・情報編」を開催。氷雪や水・土砂に関連する観測データや観測機器などの概要と観測地点をまとめたリストを限定提供。データ利活用やセンサー技術、連携方法などについての個別相談も受けた。10月には山形県内の自治体を訪問し、雪崩災害の現場見学や実験棟での降雪体験などを通じ、雪国の課題について考えるツアーを実施する。

 活動の牽引(けんいん)役、中村一樹センター長補佐は「生データそのものに価値はない。利活用可能な価値あるデータ形式に仕立て、世の中のニーズとマッチさせて新たな仕組みをデザインし、実装化して、災害予測、防災対策に貢献したい。一定の収益化も考えている」という。

 大企業との間で事業化案の検討も始めている。具体的な話になると、データ利活用の仕組みを構成する装置、分析手法などの技術や権利が複雑に絡み、「多数の関係者同士の交渉になる」(技術・知財契約に詳しい都内弁護士)。このためセンターのメンバーには産学官をまたいで知財活用に活躍した専門家も加わっている。

 気象モデルの予測計算結果を可視化したサイトなど、データ利活用の動きは海外機関でも始まっている。国際競争の観点からも、防災科研の今後の動きに注目したい。(知財情報&戦略システム 中岡浩)