ローカリゼーションマップ

風景の美醜に常に敏感であれ 「まもることにコミットする」大切さ (3/3ページ)

安西洋之

 今年の3月にリトアニアを訪れた。旧ソ連時代、美しさを自分で判断する自由を奪われた人たちが、独立後に新しい社会を作るのに苦労している。既に25年以上を経過しているが、自らが美しさの基準を再びもつのはそう簡単ではない。

 したがって美しさへの目は、間断なく持ち続けることが大切なのだ。放棄する瞬間があってはいけない。

 クチネッリ氏は「あの醜い建屋をそのままにして、次の世代が処分を決定しても遅くないだろう」と宿題として残さなかった。それは、次の世代の人たちが「前の世代は、あの醜さを許容範囲としたのだから、このままにしておこう」と判断する危険性を恐れたのだと思う。

 今、問題を解決できるなら、今、解決させておかないといけない。

 それだけの緊張感が美しさの継承にはあり、その最たる例が風景である。自然あふれる風景であれ、建造物が密集する空間であれ、ぼくたちはその風景の美醜に常に敏感になるべきなのだ。

 この感性が社会をつくっていくにあたり鍵であると心の底から思えたのは、ぼくも恥ずかしながら前述したリトアニアのプロジェクトに絡んでからだ。クチネッリ氏のプロジェクトをほんとうに理解するには時間がかかるが、自分なりに腑に落ちた時、心が落ち着くのはとても嬉しい。(安西洋之)

【プロフィル】安西洋之(あんざい ひろゆき)

安西洋之(あんざい ひろゆき)上智大学文学部仏文科卒業。日本の自動車メーカーに勤務後、独立。ミラノ在住。ビジネスプランナーとしてデザインから文化論まで全方位で活動。現在、ローカリゼーションマップのビジネス化を図っている。著書に『デザインの次に来るもの』『世界の伸びる中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』、共著に『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 世界で売れる商品の異文化対応力』。ローカリゼーションマップのサイト(β版)フェイスブックのページ ブログ「さまざまなデザイン」 Twitterは@anzaih

ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解するためのアプローチ。ビジネス企画を前進させるための異文化の分かり方だが、異文化の対象は海外市場に限らず国内市場も含まれる。

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