故人を丁寧に見送る葬儀のあり方に決まりはない。故人の人生に向き合い、気持ちよく見送るためのさまざまな「こだわり」の実例をレポートする。
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今年の1月に実母の石原米子さん(享年95)を、喪主として見送った東京都練馬区に住む石原牧子さん(70)。ともかくその葬儀の模様を写真でご覧いただきたい。
父の葬儀の疑問から
式場は、牧子さんが撮影した米子さんの故郷・秩父の写真を背景に、庭の木々をあしらい、あたかも自宅の庭で「おみおくり」をするような雰囲気だ。「参列した親戚からは『うわーっ』と歓声が上がりました。会場を貸してくださった和尚様も食事を準備してくださったスタッフの方も、みなさんが素敵だとおっしゃってくれました。本当によかったと思います」と牧子さん。
牧子さんが母の葬儀にこだわったのは、先に亡くなった父の葬儀に疑問を持ったからだった。父の葬儀は僧侶がお経をあげて焼香をする従来の一般的な葬儀だったが、「母のことを考えたときに、これはちょっと違うなって思ったんです」。
庭木で無二の祭壇
葬儀にあたって「母らしさ」をどのように表現するか。そのために改めて母の人生と向き合った。そして導いた葬儀のテーマは「妻、母として、そして一人の女性として、95年という生涯を生き抜いたお祝いの儀」。染め物や絵画など多彩な趣味を持つ米子さんの作品を飾り、大好きだった音楽にあふれた「お別れの会」となった。
牧子さんは祭壇を生花で飾りたいと思っていた。実際、生花祭壇はその華やかさから人気が高いが、そのぶん費用もかかる。そこで思いついたのが、母と眺めた庭の南天や夏みかんの木だった。葬儀社の担当者に「庭の木を切ったらそれを使っていただけるかしら」ともちかけ、唯一無二の祭壇をつくることができた。
ちなみに今回の葬儀で花代としてかかったのは、故人が大好きだった胡蝶蘭と、情熱的だった米子さんをイメージして用意した赤いバラの花束のみ。費用は家族で出し合ったそうだ。「胡蝶蘭を棺に手向けたら、お顔のまわりが花だらけになって。まるで95歳の白雪姫ね、なんて笑顔で見送ることができました」
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■思い出の曲を演奏、CD化して配布
この葬儀は無宗教の「お別れの会」として開かれ、米子さんの作品の展示、思い出を語るスピーチ、音楽の生演奏やスライドショーの観賞で故人をしのんだ。
演奏されたのは、米子さんが最後まで口ずさんでいた賛美歌、親子で演奏をした思い出のピアノ協奏曲など。そして最後は「ふるさと」を参列者全員で合唱した。
「このお別れの会は、私の一生の宝物です。母をよく知る人たちと改めて母について語り、しのぶことができたのも良かったです。母が喜んで旅立ってくれたと心から思えます」
この会をサポートした葬儀社「アーバンフューネスコーポレーション」(東京都江東区)のエンディングプランナー、高山岬さんは、「今回はご家族のご希望をどれだけきちんとくみとれるかに最も注意しました。お母さまのためにみなさんで意見を出し合い、より良い空間、時間を一緒につくりあげることは、とても素晴らしいことだと思います。われわれにとりましても、お葬式の価値や意味を再認識する機会になりました」と振り返る。
葬儀から半年たった今でも、牧子さんは「あんな素晴らしいお葬式は初めて」と声をかけられるという。会で演奏された曲目はCDとして編集し、参列者に贈られた。牧子さんは「みなさんが後日CDを聞いて『癒やされる』『米子さんを思い出す』って言ってくださるのが本当にうれしいです」と語った。(『終活読本ソナエ』2018年夏号から、隔週掲載)
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■お葬式DATA
▽形式=1日葬(無宗教・お別れの会)
▽規模=家族葬(参列者約25人)
▽式場=久遠寺(東京都新宿区)
▽葬儀会社への支払い=約160万円
▽葬儀会社=アーバンフューネスコーポレーション(https://www.urban-funes.com/)