【Science View】AIによる有機分子の設計とその実験的検証に成功

≪図実際に合成したAIで設計された分子の吸収スペクトル≫400nmの光を吸収する分子としてAIが生成し、実際に実験で合成された有機分子の紫外吸収スペクトル(紫)とDFTのスペクトル(緑)が、どちらも400nmに吸収を持つことが分かる。
≪図実際に合成したAIで設計された分子の吸収スペクトル≫400nmの光を吸収する分子としてAIが生成し、実際に実験で合成された有機分子の紫外吸収スペクトル(紫)とDFTのスペクトル(緑)が、どちらも400nmに吸収を持つことが分かる。【拡大】

  • 理化学研究所革新知能統合研究センター分子情報科学チーム特別研究員・隅田真人氏
  • ≪図代謝型グルタミン酸受容体(mGluR3)の生細胞膜中の動きと機能状態の関係≫2色同時1分子イメージングと阻害実験により、Gタンパク質と相互作用中のmGluR3は速く動くものが多く、クラスリンと相互作用中のmGluR3は静止したものが多いことが明らかになった。薬をかけた際に生じるmGluR3の動きの変化は、これらの機能状態の割合が変化することが反映したものと考えられる。
  • 理化学研究所開拓研究本部佐甲細胞情報研究室研究員・柳川正隆氏

 □理化学研究所 革新知能統合研究センター 分子情報科学チーム 特別研究員・隅田真人

 ■AIによる有機分子の設計とその実験的検証に成功

 これまで、人工知能(AI)による有機分子の自動設計が行われてきたが、設計された分子の実験的検証がされたことはなかった。そのため、それらの分子が安定に存在できるのか、また実際に合成できるのか、所望の特性を示すのかなどについてはよく分かっていなかった。

 今回、理研を中心とした共同研究グループは、光の吸収波長をターゲットに、「深層学習によるAI技術」と「量子力学に基づいた分子シミュレーション技術」を組み合わせることで、AIが設計した有機分子から、安定かつ所望の特性を持つ分子を自動設計することに成功した。具体的には、(1)データベースにある分子量400程度の1万3000個の有機分子の構造式を入力し、リカレント・ニューラル・ネットワークという深層学習の手法によってあらゆる有機分子の法則を学習させる、(2)目的の吸収波長を持つ分子をモンテカルロ木探索という手法で探索する、(3)(2)で見つかった分子の性質と安定性を、量子力学に基づいた分子シミュレーション技術である密度汎関数理論(DFT)によって計算する-という方法を用いた。さらに、この手法によって設計された数十個の分子のうち、数個の分子を実際に合成して所望の特性があることを確認し、AIが分子設計に有用であることを実証した。

 本研究成果は、今後、有機エレクトロニクスなどにおける機能性分子の設計に貢献すると期待できる。

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【プロフィル】隅田真人

 すみた・まさと 2008年筑波大学数理物質科学研究科博士課程修了、博士(理学)。筑波大学数理物質科学研究科助教、物質・材料研究機構博士研究員などを経て、17年7月から現職。

 ■コメント=分子設計から合成まで、人の手が入らない未来を夢見てます。

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 □理化学研究所 開拓研究本部 佐甲細胞情報研究室 研究員・柳川正隆

 ■細胞膜の受容体1分子の動きから薬効を評価

 Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は、光・匂い・味・神経伝達物質・ホルモンなど細胞外の刺激を受けGタンパク質を活性化することで、細胞内へ情報を伝える働きをする。GPCRは薬の主要な標的分子であるが、従来の薬効評価には受容体に応じた細胞応答の計測が必要とされ、単一の手法での評価は困難であった。

 今回、理研を中心とした共同研究グループは、全反射蛍光顕微鏡を用いて、生きた培養細胞中で蛍光標識した9種類のGPCRの動画を撮影し、個々の受容体分子の動きを追跡した。薬による受容体分子の振る舞いの変化を解析したところ、9種のGPCRは、いずれも活性化すると動きが遅くなることが分かった。また、代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)について、受容体の動きと機能の関係を2色同時1分子イメージングなどにより詳しく解析し、Gタンパク質と相互作用中の受容体は動きが速いものが多いのに対し、クラスリンと相互作用中の受容体は動きが止まったものが多いことを明らかにした。受容体の動きと機能の関係は多くのGPCRに共通しているため、動きを見ることで新規化合物がGPCRにどのような作用を及ぼすか推定できるようになると考えられる。

 本研究成果は、1分子レベルで薬の作用機序を理解する1分子薬理学の発展や、1分子イメージングを用いたGPCR標的化合物の薬効評価という新たなドラッグスクリーニング手法の開発に貢献すると期待できる。

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【プロフィル】柳川正隆

 やながわ・まさたか 2011年京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了、博士(理学)。日本学術振興会特別研究員(DC1)、京都大学特定研究員、理化学研究所基礎科学特別研究員を経て16年4月から現職。

 ■コメント=網羅的な1分子計測により、細胞膜中の受容体の時空間制御機構の一般性を解明したい。

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 ■理研と産業界の融合的連携研究制度 2019年度の募集を開始

 企業が抱える研究開発課題に対し、企業と理研の混成チームを理研内に置いて研究開発を共同で実施する「産業界との融合的連携研究制度」の2019年度募集が始まった。企業と理研が一体となることで理研の研究成果に基づく形式知(特許・論文)だけでなく、暗黙知(ノウハウなど)を効率的に企業に移転し、研究成果の早期実用化・次世代の技術基盤の創造を目指すのが狙い。研究予算は 研究計画に応じて提案企業・理研の双方で負担する(マッチングファンド方式)。混成チームは企業側の担当者をチームリーダーとして受け入れ、理研側の研究者が副チームリーダーとして参加する。

 【応募期間】

 2018年9月6日(木)~11月5日(月)

 【募集要項・説明会申込方法などの詳細】

 http://www.riken.jp/outreach/programs/entry/

 【問い合わせ】

 理化学研究所科技ハブ産連本部バトンゾーン研究推進課 近藤、鈴木、大須賀

 (電)048・462・5459 E-mail:yugorenkei@riken.jp