【終活の経済学】こだわりの家族葬(5)やっておくべきこと

ウィルライフ(www.willife.com)の棺「エコフィン・オルタナ」。国産間伐材と紙素材のハイブリッドで、専用スタンドと組み合わせると祭壇になる
ウィルライフ(www.willife.com)の棺「エコフィン・オルタナ」。国産間伐材と紙素材のハイブリッドで、専用スタンドと組み合わせると祭壇になる【拡大】

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 ■「その人らしさ」イメージして

 「家族に負担をかけないようにしたい」という思いから、「葬儀はしなくていい」「なるべく質素に」という本人。その一方で、「本当にこんなに質素で良かったのか」と選択した別れのかたちに不安を抱く家族の声もある。自分自身も家族も納得の葬儀を行うために、やっておくべきことがあるはずだ。

 「葬儀のイメージを膨らますだけでも、“その時”の準備になります」と話すのはアーバンフューネスコーポレーション(東京都江東区)の高田彰さん。同社がさまざまな葬儀事例をインターネットなどで公開している理由もそこにある。

 実は喪主との打ち合わせで「どんな葬儀にしたいですか?」と尋ねられ、即答できる人のほうが少ない。

 費用をかける、かけないの問題ではなく、さまざまな事例を見る中で「花は手向けてね」「酒を飲んで自由に送ってくれよ」など冗談まじりに家族と話すだけでも、遺(のこ)された家族の参考になるという。

 「“お父さんこう言ってたな”“こういう人だったよね”と話しながら葬儀の準備をすると、家族にとってはまだ一緒に生きているような感じがするものです。こうした故人との関係性が、遺された家族の心を癒やすことにつながっていくのだと思います」

 また、数々の葬儀の現場で遺族と打ち合わせをしてきた博全社の大野吉則さんは、喪主自身が「私のときはこうしてね」と息子や娘に意思を伝えるシーンをたびたび目にしたという。

 「それまでは無縁だったお葬式が、喪主を務めることで具体的にイメージでき、伝えやすくなるのだと思います。どんな葬儀にしたいか、ご希望は何でもご相談ください」と話している。

 ■印象に残った葬儀事例をメモ

 葬儀社に事例を見せてもらったり、インターネットで検索するなどして、どんな葬儀があるかを調べておく。「葬儀ガイド」(https://sougi.guide/)では全国の葬儀社・葬祭ディレクターが、自社・自身の施行を「葬儀事例」として投稿している。まだ数は少ないが、実際の葬儀の様子を公開する動画もあるので、見てみるとイメージがわきやすい。

 終活メモ程度のつもりで、印象に残った葬儀の事例や事柄を、良いと思った理由とともにエンディングノートなどに書いておく。そうすることで、後で見返したときに考えが整理しやすい。

 また、家族からは「お葬式はどうする?」とは、なかなか口に出せないものだが、こうしたメモをもとに、葬儀のことを自ら話すのはとても大切な準備になる。

 「誰に見送ってほしいか」「もし何か一つこだわるとしたら、それは何か」など、自分らしいお別れの仕方を具体的に考えてみる。自分らしさって? と迷う場合は、一緒に歴史を重ねてきた住まいをぐるっと見回してみるとヒントがあるかも。

 なんとなくイメージがわいたら、いくつかの葬儀社に相談してみる。花の祭壇が得意な会社、柔軟な演出ができる会社など、葬儀社によっても個性はさまざま。

 またパッケージにこだわらず、真摯(しんし)にこちらの要望を受け入れようとする姿勢も、葬儀社を選ぶ重要なポイントだ。

 ■遺された人の気持ち大切に

 □葬送・終活ソーシャルワーカー 吉川美津子さんに聞く

 お葬式の規模が小さくなったり、さまざまな儀礼が縮小されたりと、かたちは変わっても、大切な人を亡くして悲しむ気持ちというのは、人類史上変わるものではありません。お葬式で最も大切なのは、お金をかける、かけないではなく、何か一つでも「故人のために」と思う、遺された人の気持ちなのではないでしょうか。

 ◆受け入れる材料

 実は半年ほど前、私の姉の夫が亡くなりました。長い闘病生活もあってか、家族には「豪華に送りたい」という気持ちはまったくありませんでした。たとえば祭壇についても「10万円の差があったとしても、自分たちの気持ちが変わるわけではない」と、葬儀社から提案された中で一番安いタイプを選びました。

 そんな家族が唯一こだわったのが「靴」でした。「パパは冬でもビーチサンダルだったよね」と子供たちが段ボールを切り抜き、パパらしいとピンク色のヒョウ柄にして棺におさめていました。子供たちは親戚にもそのビーチサンダルを見せて、「恥ずかしいからやめて、なんて言われてたよね」と思い出話に花を咲かせていました。豪華でもなんでもないけれど、とても満足げな家族の様子が印象的なお葬式でした。

 大切な人を亡くした後の家族というのは、何をどうしたらよいのか分からないパニック状態になります。そんな中、小さなことでも何か一つ故人のためにやり遂げようとする行為は、死を受け入れる材料になります。それが葬儀の意味ともいえるでしょう。誰も「家族の死をぞんざいにしたいからシンプルにしよう」「費用を安く抑えよう」なんて思っていません。けれど、祭壇や棺や、お葬式自体への価値観は人それぞれに異なるものです。シンプルが良い悪いではなく、送り方についてもう少し柔軟に考えていいのかなと思います。

 ◆あくまで「点」

 自分のお葬式やお墓について、「迷惑をかけたくないからお葬式はしなくていい」「お墓もいらない」という方がいらっしゃいますが、葬儀やお墓はあくまで点。点としての要望だけを残すと、かえって弊害が起こりがちです。自分がどういう終末期を迎え、どこで死に、どう弔ってもらいたいのか。その全体をストーリーとして捉え、「お葬式をしないのであれば代わりにどうしてもらいたいのか」「もし家族がその方法が嫌ならどうするのか」まで考えておけば、家族も安心できるのではないでしょうか。(『終活読本ソナエ』2018年夏号から、随時掲載)

【プロフィル】吉川美津子

 きっかわ・みつこ 葬送・終活ソーシャルワーカー、社会福祉士。大手葬儀社、仏壇・墓石販売業の現場経験を積み、専門学校で葬祭関連学科の運営などに関わる。著書に『死後離婚』『お墓の大問題』など。