寄稿

パリ協定に提出する日本の長期戦略 (2/3ページ)

 再エネは主力電源化するため、既存設備を最大限活用することが掲げられ、調整力として揚水発電の活用や連系線を活用したエリア間融通の活性化など当面すぐにできることを列挙しています。また、2050年に向けた技術革新によるブレークスルーとして、高性能低価格の蓄電池や水素システムの開発などが挙げられており、直近と長期双方の対策を見据えた適切な姿勢と評価できます。

 一方、石炭火力発電については廃止の方向性を打ち出せず、「パリ協定の長期目標と整合的にCO2排出削減」としただけでした。また、CCSやCCUS(CO2回収・利用・貯蔵)の推進など、商用化されていない技術に依存しています。

 原子力については、「安全を最優先し、再エネの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する」としながらも、「安全性・経済性・機動性に優れた炉の追求、バックエンド問題の解決に向けた技術開発や国際連携を進めていく」とし、2050年においても技術革新頼みの原子力に依存することが前提になっています。

 また、その実効性から世界的に拡大しているカーボンプライシング(炭素の価格付け)については、「国際的な動向や我が国の事情、産業の国際競争力への影響等を踏まえた専門的・技術的な議論が必要」とするにとどまり、日本でもっとも多く温室効果ガスを排出している産業部門に対し、効果的な政策・施策が明示的に打ち出されませんでした。

 産業部門で電力に次いで排出の多い鉄鋼業界の取り組みとして、超革新的技術である水素還元製鉄技術への挑戦はうたわれているものの、現実的にすぐにCO2削減につながる鉄リサイクル推進については言及されませんでした。

 長期戦略案は全体として、脱炭素社会をビジョンとして明確に掲げ、「成長戦略」として長期戦略を示した点は大いに評価できるものの、そこに至る道筋としての「戦略」については多くの課題が見られると言えるでしょう。特に、脱炭素達成の手段として非連続的イノベーションに大きく依存し、直近でできることを軽視している点は問題です。

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