「産後クライシス」冷え込む夫婦関係 役割分担など産む前から備えを

 

 出産後、夫婦関係が急激に悪化する「産後クライシス(危機)」。核家族化が進む中、子育てを一人で背負う妻が産後鬱になるなど深刻な事態を招くこともある。産後の女性は心身ともに不安定で、夫の気遣いが大きな支えとなる。専門家は「妊娠中から夫婦で準備をしておけば、産後の危機を乗り越えられる」と、事前の対策の重要性を訴えている。(油原聡子)

 母親支援足りず

 「産んだ後は、骨盤がぐらぐらして痛いんですよ」

 今月上旬、横浜市内で妻が妊娠中の夫婦を対象にした「産後セミナー」が開かれた。講師を務めたNPO法人、マドレボニータの吉田紫磨子さん(44)がこう説明すると、会場からは「そうなんだ…」と不安そうな声が上がった。

 横浜市の子育て支援団体「チームWITH」が主催した同セミナーには約10組の夫婦が参加。吉田さんは、「日本には妊婦や赤ちゃんへの支援はあっても、産後の母親への支援は足りないんです」と現状を訴えた。参加した横浜市の会社員の男性(31)は「夫婦2人の子育ては大変そう。両親や地域の人など周囲の助けが必要だと思った」と話し、妻と顔を見合わせた。

 離婚に発展

 出産前、赤ちゃんを抱っこして幸せな子育て生活を夢見る女性は多い。しかし、実際に生まれてみると、体がダメージを受けている上に、泣きやまない子供を前に途方に暮れ、授乳などによる寝不足で疲労はピークに達する。そうした中、理解のない夫の言動が引き金となり、離婚に発展するケースも少なくない。

 厚生労働省が平成23年、母子家庭の実態を調査した「全国母子世帯等調査結果報告」では、離婚時の末の子供の年齢は「産後クライシス」の時期に当たる「0~2歳」が最も多く35・1%を占めた。

 吉田さん自身、結婚4年目で待望の第1子を出産したが、産後鬱になった。夫が深夜まで働いていたことからすれ違い、孤独感が募った。「夕方になると赤ちゃんはよく泣く。でも、その時間帯は、赤ちゃんの沐浴(もくよく)や夕飯の準備などやることはたくさん。本当に大変でした」と振り返る。

 夫が働き方を変えて早く帰宅するなど協力的になったことで関係は修復。結果的に4人の子供に恵まれた。吉田さんは「出産後の夫婦の会話は赤ちゃんや家事についての事務的なものになりがち。妊娠中から夫婦の役割分担などについて話し合い、産後に備えることが大切」と助言する。

 周囲を頼って

 出産後の母親は心身ともにダメージを受けやすい。東峯婦人クリニック(東京都江東区)の松峯寿美院長は「産後、女性の体は妊娠前の状態に戻ろうとする。無理をすると妊娠中に伸びた骨盤底筋群が戻らず、尿漏れや痔(じ)になることもあります」と指摘する。

 また、産後は妊娠中に大量に分泌されていた女性ホルモンが一気に減少してマタニティーブルーから産後鬱になりやすく、注意が必要だという。

 最近は母体の回復のほか、母乳の知識や赤ちゃんへの接し方などを教え、自信を持って自宅に戻れるよう手厚くサポートする産後ケア専門の施設が出てきている。

 産後ケアに関する人材育成に取り組む、日本産後ケア協会(千代田区)の大久保ともみ代表理事は「母親が1人で子育てを抱え込む必要はない。人を頼ったりサービスを使ったりして、自分が楽になれる時間を作り、余裕を持って育児をしてほしい」と話している。

 ■サポート期間を3カ月に

 日本では古くから「床上げ3週間」と言われ、産後のサポートは3週間という文化がある。しかし、母親が孤立しやすい現状を踏まえ、家族や企業など周囲による産後のサポート期間を3カ月に延ばそうという運動「3・3産後サポートプロジェクト」が始まった。

 NPO法人、孫育て・ニッポンの棒田明子理事長らが発起人となり、10月に東京都内でキックオフイベントを開催。家族で産後のサポート計画を立案することなどを盛り込んだ「赤ちゃんにやさしい家族5カ条」や、育児休暇の取得促進をうたった「赤ちゃんにやさしい企業5カ条」を作成。行政や企業に協力を呼びかけていく。

 棒田理事長は「産後鬱を防ぐためにも、運動を広げていきたい」と話している。