小さくなったマタニティーマーク 批判に萎縮…「付けたくない」

 
昨年12月に発売された「初めてのたまごクラブ」の付録のマタニティーマークをあしらったストラップ(右)。平成23年の付録(左)に比べ小さくなっている(ベネッセコーポレーション提供)

 妊娠中の女性が身につけている「マタニティーマーク」。厚生労働省が平成18年に定めてから、まもなく10年になる。周囲に妊婦への配慮を求めるマークだが、インターネット上では「幸せ自慢」「妊娠は病気じゃない」など批判の声もあり、「付けたくない」と萎縮する人も出てきた。最近はマークの大きさも遠慮がちに小さくなっている。(中井なつみ)

 初期こそつらい

 赤ちゃんに寄り添う女性がデザインされたマタニティーマークは、厚労省が公募で選出。おなかの膨らみが目立たない妊娠初期ほどつわりなど体調不良に悩むケースが多いため、交通機関を利用する際などに周囲に配慮を求めることが狙い。交通各社は優先席にマークを掲げ、席を譲るよう呼びかけている。

 9割以上の自治体がマークの付いたストラップやキーホルダーなどのグッズを母子手帳とともに渡しているほか、駅などでも配布。厚労省の担当者は「(マークが)かなり浸透している」とする。

 「外した」4割

 「マークを付けていると、かえって肩身が狭かった」。東京都中野区の主婦(29)は長男(2)を妊娠中、知人がインターネットに「マークは幸せ自慢だ」と書き込んでいるのを発見。悩んだ末にバッグに付けていたマークを外した。周囲に対し、「押しつけがましかったかも」と不安になったという。

 子育て情報サイトを運営するミキハウス子育て総研(大阪市北区)が昨年12月にインターネット上で行った調査(有効回答数482人)では、妊娠中にマークを「付けなかった」と回答した人は32%に上り、「途中から外した」人を含めると4割以上になった。

 回答者に理由を尋ねたところ、「わざと押されたりすると聞いた」という不安の声や、「マークを見てつらい思いをする人もいる」と不妊に悩む人に配慮する意見もみられた。

 「嫌な思いをしたことがあるか」との問いには、「妊婦は偉いのか」と言われたり、遊園地で「妊婦は来るな」と言われたりしたケースもあった。

 直径10→5・5センチ

 こうした中、マークをあしらった関連グッズの形にも変化が起きている。通信教育講座大手、ベネッセコーポレーション(岡山市北区)が年4回発行する妊婦向けの雑誌「初めてのたまごクラブ」。毎号マークをあしらったストラップを付録にしているが、平成23年に直径10センチだったマークの大きさが、昨年12月発売の最新号では同5・5センチに縮小。担当者によると「目立たないものがいい」という読者の要望を反映させたという。

 個人や自治体向けにマークの付いたストラップやシールなどを出荷してきた藤田商店(岐阜市)ではここ数年、受注数がピーク時の3分の1程度にまで落ち込んだ。担当者は「ネット上で、一部の批判的な意見が目立つようになり、萎縮する人が増えたようだ。災害時や体調不良の場合など、『万が一のときに配慮しよう』という本来の趣旨が伝わっていない」と嘆く。

 こうした現状について、国立保健医療科学院(埼玉県和光市)生涯健康研究部の主任研究官で、産婦人科医でもある吉田穂波さんは「少子化のため妊婦が減り、つわりのつらさなどが理解されにくくなっているのでは」と指摘。一方で、「妊娠は病気じゃないから」と遠慮する妊婦もいるといい、「妊娠は危険と隣り合わせ。つらいときには周囲を頼った方がいい」と話している。

 ■男性と中高年の認知度低く

 内閣府が平成26年、全国の20歳以上の男女(有効回答数1868人)を対象に実施した調査では、中高年や男性の間でマタニティーマークの認知度が低い実態が浮かんだ。

 調査結果では、マークを「知っていた」と答えた人は全体の53.6%。年齢別で見ると20~30代では「知っていた」が7割以上を占めたが、40代(63.1%)▽50代(55.8%)▽60代(44.3%)▽70歳以上(33.7%)-と年齢を経るごとに知る人の割合は低くなっていった。

 一方、男女別で見ると、女性の63.8%が「知っていた」のに対し、男性は41.4%にとどまった。