保育園で「和食」食育 乳幼児期に正しい味覚・習慣を身につける
幼いうちから素材の味を生かした和食を中心とした食事をし、正しい生活習慣を身につけることを重視する保育園が注目されている。近年は、味を正しく認識できない味覚障害の子供たちも増えているとされ、伝統的な和食の良さが保育現場でも見直されている。(戸谷真美)
玄米ご飯の給食
「ご飯は左にありますか? お汁は右にありますか?」「100回かんで食べましょう」
1月上旬、福岡市早良区の高取保育園(園児数217人)。机に並んだ給食を前に、当番の子供が声をかける。この日のメニューは、餅きび入り玄米ご飯、がんもどきのうま煮、ホウレンソウのみそ汁に納豆。一見すると“地味”な献立だが、子供たちはみなきちんと食卓につき、楽しそうに食べ始めた。
「保育園のご飯はいつもおいしいよ」。年長の5歳児クラスの男児は元気に話した。同クラスを担当する保育士の尾形妙子さん(60)は「子供たちはいつもほぼ完食。きちんとした食生活が、集中力を育むことにもつながると思っています」。同クラスでは、配膳(はいぜん)や食器洗いも子供たち自身が行っている。食器は瀬戸物だが、子供たちが割ってしまうことはほとんどないという。
大人よりも敏感
同園の西福江園長(86)は「子供たちは起きている時間のほとんどを保育園で過ごす。だからこそ、ここで正しい食事や生活の習慣を身につけてほしい」と語る。昭和43年の開園からまもなく、西園長はアレルギーやアトピー性皮膚炎の子供が目立つようになったことをきっかけに食を学び直し、「食の欧米化などの変化が影響しているのでは」と、和食の給食を提供するようになった。
現在でも肉、乳製品をほとんど使わず、おやつもおにぎりなどが中心。みそ汁に使われるみそは、子供たちが手作りする。同園の食育は全国的に知られ、現在では教育機関や行政など年間300件の視察がある。
「人の味覚は乳幼児期につくられる。子供の味覚は実は大人よりも敏感。この時期に、本物のだしや食材そのもののうまみを感じることが大切」と西園長。
現代は加齢によって味覚が衰える高齢者だけでなく、若い世代の味覚障害も増えているとされる。東京医科歯科大の研究チームが平成24年に埼玉県内の小中学生約350人を対象に行った調査では、酸味、甘み、苦み、塩味の4つの味覚のいずれかを正しく認識できない子供が約3割に上った。正しい味を認識できない子供は、野菜の摂取量が少なかったり、ファストフードや加工食品をよく食べたりといった傾向が見られたという。
若くして乳がんにかかった女性とその家族の闘病を描いた映画「はなちゃんのみそ汁」(公開中)の主人公、安武はなさん(12)も、同園の卒園生。はなさんの料理の原点は保育園時代にある。33歳で亡くなった母の千恵さんは同園の方針に賛同し、幼い娘にみそ汁の作り方を教えた。父の信吾さん(52)は「保育園でよくかんで食べ、和食好きになったことは、はなの財産。風邪もひきにくくなりました」と話す。
発酵食品を提供
近年は高取保育園のように、和食の良さを見直し、食育に力を入れる保育園が増えてきた。
横浜市都筑区の「めーぷる保育園」(園児数32人)でも、生産者や流通経路が分かる食材を使い、和食給食や手作りのおやつを中心に提供。食へのこだわりや外遊びを大切に考える保育方針にひかれ、都内から引っ越して通う家族もいるという。
同園など4園を運営するNPO法人「もあなキッズ自然楽校」の関山隆一理事長は「和食に使うみそや漬物、納豆など発酵食品は腸内環境を整え、免疫力を高める。乳幼児期にきちんと体を動かし、正しい食事をおいしく食べるという生活サイクルを作ることが大切」と話している。
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