「東大生を出せば意識が変わる」 カドカワのN高等学校が目指す教育とは?
ネットで学ぶ通信制高校の「N高等学校」を2016年度から立ち上げて、教育事業に乗り出すカドカワ(東京都中央区)。出版社のKADOKAWAや、動画サービス「niconico」を運営しているドワンゴなど、エンターテインメントに強いグループ会社の資産を活かした、ネット時代の楽しい高校を目指すかと思いきや、東京大学をはじめとした超難関校への入学を目指すコースを立ち上げ、進学校としても強い存在感を出そうとしている。
「映画 ビリギャル」として映画化され大ヒットした「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」は、名古屋で坪田塾を運営している坪田信貴塾長が、実際の教育現場でのエピソードをつづったノンフィクション。N高校ではこの坪田塾と提携し、東京大学進学を目指したいN高生を全寮制で教育する「N塾」を設立した。
「子供たちはものすごい能力を持っているが、自分ができると信じていない。子供たちの才能を引き出していけるような教育が、広がっていく良い契機になるのでは」。昨年末に行われた発表会見で、坪田塾長は「N塾」設立の意義をこう説明した。
普通の高校に進学しても、カリキュラムになじめずドロップアウトしてしまう生徒が多く生まれている状況を見て、自分のペースで学べるような高校があれば良いと、カドカワが設置するN高校。沖縄にスクーリングのための校舎を設置する、課外授業でライトノベルやファッション、プログラミングなどが学べるといった点が評判となって、進学を希望する子供たちが大勢出てきている。
ただ、開校前のため実績がなく、ネットで学ぶといった点も親に子供を進学させて良いかといった不安を与えている。カドカワの川上量生社長は「東大生を出せばN高校への意識が変わる」と判断。個別の子供たちに合わせた指導方法で定評があり、「映画 ビリギャル」のヒットもあって広く実績が知られるようになった坪田塾と協力し、N髙生向けの“限定特典”となる「N塾」設置を決めた。
N高校は通信制のため全国どこにいても学習できるが、「N塾」は講師が直接指導にあたるため、塾生は名古屋市内に置かれる寮に入り、同市内にある校舎に通うことになる。朝の7時半に起き、午前9時から午後3時まで「N塾」の生徒として東大進学に必要な学習をし、午後4時から午後9時まで寮で自習、そして午後9時から午前0時まで通信でN高生としてのカリキュラムをこなす、といったスケジュールが一例として挙げられた。
ひとつひとつの問題を、講師が懇切丁寧に説明するのではなく、生徒と講師が互いに疑問をぶつけ合いながら、自分が何を分かっていないかを生徒が自覚するようにもっていく。そして、必要な勉強を自分で判断して行えるようにするのが「N塾」での指導方法。生徒ひとりひとりの理解度を見ならが“子別指導”を行うことで、問題への対応力を高め、学力向上を目指すという。
N高校の“進学校化”に向けた取り組みはもうひとつある。学校法人高宮学園代々木ゼミナールと共同で、N高生を対象にした大学受験のための講座を受けられる「代ゼミNスクール」を4月に開校する。
受講者は朝から東京・代々木にある専用の学習施設に通って、進学のための講座に出て、N高生としてのカリキュラムは夜などにこなすというスケジュール。通常の高校に通うよりも多くの時間を受験勉強に当てられる。今年1月に行われた発表会見で、SAPIX YOZEMI GROUP共同代表の高宮敏郎氏は「N高校に入って大学受験にも関心があるという人に来てもらい、いっしょに大学を目指して欲しい」と呼びかけた。
ここでは、代ゼミが持つ2000以上の多彩な講座から、生徒たちが自分も目標とする大学に向け、受験に必要な学科や、自分が不得意な学科を選択しながら学んでいける。通う日数も選べるようになっていて、難関大学の医学部を目指す場合、1年次や2年次は週に5日、3年次は週に3日通って、朝から夕方まで受験のための勉強を行い、夜にN高校を卒業するための授業をネットで受講する、といった生活を送ることになる。
坪田塾と行う「N塾」も、代ゼミと展開する「代ゼミNスクール」も、N高校の授業料とは別に費用がかかる。「N塾」の場合は受講費と寮費を合わせて月額6万円、年間72万円で、「代ゼミNスクール」は週1日通学で年27万円、2日なら年45万円、6日の場合は年95万円など。決して安くはないが、対価に見合った学習環境を提案して、進学を目指す生徒やその親に選んでもらおうとしている。
N高校はこのまま“進学校化”していくのか。カドカワではN高生向けに高度なプログラミング技術を学べて、すぐにでも企業に就職できる知識を得られるコースも別に設置して、実務に役立つ教育も行おうとしている。エンターテインメント性の高い課外授業も用意し、地域と連携した職場体験なども行って、さまざまな可能性から自分の進路を見つけ、選んでいけるような学校にしたい考え。何人もの東大生が生まれ、同時にライトノベルのベストセラー作家も出てくるような学校になった時、N高校の存在意義もより強まると言えそうだ。
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