「リンゴ病」実は大人もかかる 関節痛や流産のリスクも
子供の両頬が発疹で赤くなることから「リンゴ病」と呼ばれる伝染性紅斑は、大人もかかる感染症だ。症状が子供とは異なるため、あまり知られていないが、関節の強い痛みが長引いたり、妊婦が感染すると流産したりするリスクもある。春から夏に患者が増える傾向があるため、専門家は注意を呼び掛けている。
昨年は大流行
リンゴ病は「ヒトパルボウイルスB19」というウイルスが原因。感染者のせきやくしゃみのしぶきに含まれるウイルスを吸い込んだり、ウイルスが付着した手で口や鼻を触るなどしてウイルスが体内に入ったりすることが主な感染経路だ。数日から2週間ほどの潜伏期間の後、発熱やだるさなどインフルエンザに似た症状が出る。続いて特徴的な赤い発疹が出るが、そのころはもう人に広げる恐れはない。
国立感染症研究所によると、4~6年周期で大きな流行がある。全国約3千の小児科が国に患者を報告しているが、昨年は平成12年以降で最多となる10万人近い報告があった。今年3月上旬の時点でも1医療機関当たりの報告数は高水準で、例年の流行期は6~7月とこれからだ。患者は9歳以下が多いとされる。
患者報告が小児科に限られていることから、大人での実態はよく分かっていない。感染しても症状が出ない人がいる一方、激しい関節痛が数週間、まれに数年も続く場合があるという。
指が曲がらない
大きな流行があった昨年、京都府福知山市では大人の患者も相次いだ。
同市の森本宏美さん(36)は昨年2月、朝の起床時に手の指が曲がらないほどむくんでいるのに気付いた。数時間後、手首や足首に「立って歩けない」ほどの痛みが走った。包丁が握れず、他の家事もできなかった。はうようにしか動けない。車の運転も無理なので、家で横になっているしかなかった。
関節の痛みからリウマチを疑い、インターネットで調べたが、自分の症状は当てはまらない。「分からないのが一番不安でした」。数日後に受診した市立福知山市民病院での抗体検査で伝染性紅斑だと分かった。
森本さんは「大人がかかる病気とは思っていなかった」と意外そう。振り返ると、痛みが出る約2週間前には微熱があり、さらに森本さんの子供に赤い発疹が出ていた時期があった。周囲にも同じような症状が出た母親がいたという。
早い診断を
福知山市民病院の川島篤志医師らによると、特徴的な頬の発疹は大人では少なく、発疹が出ても手足が中心。また子供にはほとんどみられない関節痛があり、患者は女性が多い印象を受けるという。
特別な治療法はない。通常は1週間程度で自然に治るが、妊婦が感染すると流産の原因になることがある。23~24年の厚生労働省の全国調査でそうした例が確認され、研究者が妊婦向けパンフレットを作成し注意を呼び掛けている。
川島医師は「大人の伝染性紅斑への認知度は医療関係者の間でも低いことが課題」と指摘。福知山市での流行でも、他の医療機関で原因が分からず、同病院で診断を受けるまでに数週間かかった人もいたという。
川島医師は以前から成人の感染に関心を持っており、今回、地域内での流行に気付き、疑いのある人には積極的に検査をしていたため、森本さんも早く診断できた。ただ、検査に健康保険が適用されるのは妊婦だけで、それも種類が限られる。川島医師は「正しい診断には検査を受けやすくすることが必要。保険適用の範囲を広げるべきだ」と訴えている。
【用語解説】ヒトパルボウイルスB19
リンゴ病(伝染性紅斑)の原因となる、人にのみ感染するウイルス。「パルボ」はラテン語の「parvus(小さい)」に由来し、ウイルスの大きさは20ナノメートル(ナノは10億分の1)。リンゴ病だけでなく、ほかの疾患の原因となることもある。赤血球の寿命が短くなるために起きる溶血性貧血などの血液疾患患者が感染すると、急性の重い貧血症状を起こすことがある。
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