成人向け雑誌“目隠し”めぐり論争 コンビニでは性表現が氾濫している?
コンビニエンスストアに並ぶ成人向け雑誌を子供が目にする機会を減らすため、堺市とファミリーマートが始めたビニールカバーで表紙の写真などを隠す取り組みをめぐり、論争が起きている。「いい取り組み」と評価する声がある一方、「強制的に見せなくするのはどうか」「やり過ぎだ」などの声も聞かれる。法律の専門家は「行政の判断で行うことは、『表現の自由』侵害につながる」と懸念。日本雑誌協会と日本書籍出版協会は「過剰な規制」などとして、中止を求めて声明を発表した。「子供の健全育成」と「表現の自由」の間で不協和音が響いている。(張英壽)
市の予算で文字や写真は見えなくなったが…
3月16日、市とファミリーマートは市役所で協定締結式を開催し、竹山修身市長とファミリーマートの岩切公愛(きみちか)上席執行役員が出席した。竹山市長は「子供が安心して買い物できる」などと歓迎。岩切上席執行役員は「女性のお客さまが増え、子供連れのお母さんもいる。そういう点を考慮し、第一歩を進めることになった」としたが、「賛否両論はあろうと思う」とも述べていた。
今回の試みは、主要コンビニ各社が加入する「日本フランチャイズチェーン協会」(東京)も「聞いたことがない」と言い、全国的にも珍しい。
きっかけは、平成26年度に6回にわたり行われた市と有識者との研究会のリポートで、「コンビニでは、野放図に性表現が氾濫し、子供も容易に目にすることができる」と指摘されたことだ。竹山市長の肝いりで進められ、地域の安全・安心などで市と相互連携する包括連携協定を26年12月に締結していたファミリーマートと協議。昨年12月には大筋で合意していたという。コンビニを対象にしたのは、さまざまな年齢層、男女の不特定多数が訪れるからだという。
締結式の日、まず直営の「なかもず駅北口店」(堺市北区)で取り組みを開始。翌17日に10店舗に拡大した。
協定によると、対象は、大阪府青少年健全育成条例で有害図書類に指定され、区分陳列された雑誌。高さ12センチの濃い緑色のカバーで雑誌中央を腹巻きのように覆い、上部のタイトルや下部のバーコード部分以外を隠す。後ろの粘着部分で止めている。カバーの購入代金は市の予算でまかなっている。
コンビニに置かれている性的な描写がある雑誌は、業界で「成人向け雑誌」と呼ばれ、大阪府内では一般の雑誌とは別のコーナーに置かれている。出版社側が、雑誌の上下2カ所をシールで止め、本を開くことができないようにしているが、今回の取り組みは、さらに一歩進めたことになる。
カバーは当初、半透明の色が検討されていたが、完成したのは濃い緑色で、覆うと、写真や文字などは完全に見えなくなった。
ある日、「なかもず駅北口店」に入ると、雑誌売り場端っこの「成人向け雑誌」と記されたコーナーに、このビニールカバーで覆われた雑誌が並んでいた。15種類ある。
だれかが触ったのか、カバーが上方にずれ、タイトルのほうまで隠されている雑誌もあった。また小さな雑誌は、本の大部分が覆われていた。
同店は直営店だが、同じ取り組みを始めた残る市内10店舗はフランチャイズ店で、ファミリーマートは店舗名を公開していない。
「見たい人はカバー外す」の声も
人通りが多い南海難波駅前(大阪市中央区)で今回の取り組みについて聞いてみると、賛否が分かれた。
「いい取り組み」というのは、大阪府河内長野市の主婦(49)。「私の子供が小さかったときは、成人向け雑誌のコーナーには連れて行かないようにしていた」と思い出す。8歳男児と6歳女児を連れ、福岡県柳川市から旅行に来たという別の主婦(36)も評価し、成人向け雑誌のコーナーについて同様に「子供には見させないようにしている」と話した。女性からはほかにも好意的な声があった。
一方、同じ女性でも、大阪市港区の医療事務の女性(38)は「強制的に見せなくするというのはどうか」と疑問を投げかける。「そこに成人向け雑誌があるということは事実。もし子供にその雑誌について聞かれた場合、『あなたにはまだ早い』と説明すべきだ。ダブーのようにして隠すのはよくない」
また大阪市此花区に住む会社員の40代男性は「やり過ぎだ。行政の領域を超えている」と話す。大阪府富田林市の会社員の男性(50)は「見たい人がカバーをはがすのではないか。(現在、成人向け雑誌を開けられなくしている)2カ所止めを外して見る人もいる」と指摘した。
インターネット上でも、同様に賛否両論が起きている。「全国に広めてほしい」「インターネットがこんな状況(性的な画像があふれていることを指すとみられる)で隠して意味があるのか」などの意見があった。
「条例趣旨を逸脱」と専門家
そんな中、ネットの「ヤフーニュース」の個人コーナーで、問題点を指摘するのは、大阪弁護士会所属の弁護士で、有害図書規制に詳しい園田寿・甲南大法科大学院教授だ。
堺市の取り組みで対象となる雑誌は大阪府条例で、ビニール包装やひもがけなど、「閲覧できない状態」にし、区分陳列することが義務づけられている。出版業界は雑誌2カ所をシール止めして本を開けられないようにしており、府はこれで「閲覧できない状態にあたる」としている。
園田教授は、取材に「条例で、表紙まで隠すことは求められていない以上、条例の趣旨を逸脱している」と断言。「同じことを、コンビニ側の自主的な判断で実施するのなら、問題はないが、行政側の判断で行うと、公権力の濫用になり、『表現の自由』の侵害につながる」と指摘する。
さらに園田教授は「子供や女性が利用するコンビニに成人向け雑誌があふれていること自体は問題だろうが、行政側の判断でやっていいというわけではない。今回は協定という形だが、ビニールカバーは市の費用から出ており、公的規制になっている」という。そのうえで「市が成人向け雑誌を規制したいのならば市民が納得できるよう、新たに条例案を議会提出して制定すべきだ。きちんとした手続きをとる必要があるのではないか」と提言する。
条例指定の雑誌以外も?
一方、堺市が、カバーで覆う対象としている有害図書類。府条例で定めているが、実はどの雑誌が該当するのかはっきりしないという問題がある。
有害図書類は、大阪府知事が、有識者らによる審議会部会の答申を受けて告示していたが、平成23年度以降審議会部会は開かれていない。23年度以降は知事が個別に雑誌を指定する代わりに、規定された性的な描写が「総ページの10分の1以上または10ページ以上」であれば、自動的に指定されるようになった。これを「包括指定」と呼ぶ。
包括指定に切り替わったのは、全国で大阪府と同様の条例が広がり、出版社側が自主規制で、成人向け雑誌の上下2カ所をシールで止め、納品するようになったためだ。府青少年課は「どの雑誌が有害図書類に該当するかは『店側の判断』」というが、実際は難しい。ただ自主規制の「網がけ」の範囲は条例より広く、コンビニでは条例をクリアしているとみられるが、指定された有害図書類以外が含まれている可能性がある。
園田教授はこの点について「有害図書類ではない雑誌に、行政が表紙を隠すことを要求するのは問題」と疑問を呈している。
雑誌協会に市長は「失当」と反論
出版社側からは、反対の動きも出ている。
日本雑誌協会(88社加入)と日本書籍出版協会(423社加入)は3月18日、竹山修身市長への公開質問状を発送。「表紙は購入するか否かを決める重要な手がかり」「図書類への規制強化につながる」とし、「憲法で保障されている『表現の自由』に抵触するのではないか」など8項目を質問した。園田教授と同様に、条例に表紙を見えなくする規定はないことから「条例を逸脱する行為ではないか」と指摘した。
これに対し、竹山市長は3月30日、回答を発送し、「合意に基づく協定という性質上、府条例を逸脱しない」と主張。「すべての店舗に網羅的な規制を敷くものではない」とし、「表現の自由に対する違反にはあたらない」と結論づけた。
両協会は「ビニールカバーは公費で支出されており、過剰な規制。条例逸脱は明らか」などとして納得せず4月4日、市にファミリーマートとの協定を即刻解除するよう求める声明を発表したが、市は応じない方針だ。
竹山市長は3月25日、自身のツイッターで、日本雑誌協会などが指摘した「表現の自由」への抵触について「自主協定であり失当(的を射ていない)」と投稿。同日の記者会見でも、「子供やお母さんが気軽に入れるコンビニで有害図書類が置かれていいのだろうかと思い、自主協定をさせていただいた」と説明。「表現の自由への抵触」や「公権力の行使」を否定した。
ただ竹山市長は4月6日の記者会見で、「日本雑誌協会や日本書籍出版協会にケンカをうっているわけではない。ご理解願いたい」とややトーンダウン。担当課の市市民協働課は当初市内のファミリーマート全店舗(3月末84店)での導入を目指していたが、「全店に広げているわけではない。理解が深まったところからやっていけばいい」と述べた。
一方、ファミリーマートは「お客さまの反響を見つつ、市と相談しながら展開を進めたい」としており、取り組みを拡大するか明言していない。
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