アニソンライブ急成長も…首都圏は会場不足? 閉鎖など相次ぎ、歌手ら懸念
アニメーションに関する歌を聞かせるライブに何万人もの観客が訪れる。マンガやゲームが原作となったミュージカルや、新作アニメをお披露目するイベントが大勢の来場者でいっぱいになる。アニメやマンガを見たり読んだりするだけでなく、これらのコンテンツを核にしたビジネスが大きな広がりを見せている。作品の人気に左右されがちで、イベントに使える会場が減っている問題を乗り越え、さらに成長していけるのか?
東京ドームが一色に染まった。5万人は入っているだろう観客が手にしたペンライトが、「Snow halation」という楽曲の始まりとともに白く輝き、途中でいっせいにオレンジへと切り替わった。メディアミックス企画「ラブライブ!」から生まれたアイドルユニットのμ’s(ミューズ)が、3月31日と4月1日に東京ドームで開いたファイナルライブでの光景。6年間続けた活動の集大成となるパフォーマンスに、観客も一体となって応え、盛り上げた。
9人の少女たちがスクールアイドルとなって、廃校の危機にある学校を救おうとするストーリーと、設定されたキャラクターに沿って、声優や歌手をしていた9人で結成されたμ’s。音楽CDをリリースし、テレビアニメにも登場しながらファンを増やしていき、2015年末のNHK紅白歌合戦に出演するほどの人気グループとなった。ワンマンライブはこれで見納めという条件もあったとはいえ、東京ドームを2日間埋め尽くし、国内外の劇場でライブビューイングも行われたμ’sと「ラブライブ!」の勢いは、アニソンが持つパワーの強さを証明した。
アニソンのイベントは尽きない。4月9日と10日には、同じ東京ドームでアニソン界の歌姫、水樹奈々さんが単独ライブを開催。夏にはさいたまスーパーアリーナで、アニソンのフェスティバルとしては世界最大級となる「アニメロサマーライブ2016」が8月26日から28日まで、3日間にわたって開催される。
3月26日にアニメの展示会「AnimeJapan 2016」で行われた会見では、「刻-TOKI-」というテーマと出演アーティストが発表された。μ’sのメンバーでもある三森すずこさんや、男性声優として人気急上昇中の蒼井翔太さんらが登壇して、12回目を迎えるアニソン界屈指のビッグイベントに臨む意気込みを表明した。3日間で8万人を超える観客が、疲れを知らず何時間にも及ぶステージを応援し続ける様子は、アニソンが持つ強い吸引力を見せてくれる。
アニソンの人気は海外にも広がっている。3月12日と13日に東京国際空港(羽田空港)の国際線旅客ターミナルで繰り広げられた「ハネダインターナショナルアニメミュージックフェスティバル」には、スペインやオーストラリア、ドイツ、イタリアといった地域でアニソンを歌い、アニメキャラに扮するコスプレを行うアーティストが、“聖地”とも言える日本に来てパフォーマンスを繰り広げた。
劇場アニメ「空の境界」やテレビアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」といった作品に携わった女性3人のボーカルユニットKalafina(カラフィナ)は、2月に初のメキシコ公演を行って成功させ、5月10日には中国でも最大規模となる音楽祭「上海之春国際音楽祭」に招待され、日本のポップス歌手として初の単独公演を行う。海外のアニソンファンが日本へと訪れ、日本からアニソンのアーティストが世界へと向かう交流が、ファンの輪を広げ、マーケットの規模を拡大していく。
アニメ制作会社が加盟する日本動画協会が刊行しているアニメ産業レポート2015によれば、アニメ音楽の市場で2014年に237億円を確保。CDなどパッケージの減少が続く音楽業界のトレンドに沿って減少傾向が続いているが、一種のキャラクターグッズと言えることもあって、減少率はJ-POPや洋楽などに比べて小さい。
一方で、μ’sの東京ドームライブのように、アニメソングをホールで楽しんだり、アニメや漫画などが原作となったミュージカルを鑑賞したりする“ライブエンタテインメント”の市場が拡大。アニメ産業レポート2015は、ライブや舞台に加えて映画館でライブ中継を見るライブビューイング、アニメ関連展示会の売上も含めた2014年のライブエンタテインメント市場を308億円、前年度比4%増と算出している。
レポートでライブエンタテインメントの項を執筆したアニメ産業研究家の増田弘道氏は、アニソンライブの公演数が2年足らずで2.1倍、動員数と市場規模が2.4倍に急成長したことを挙げ、こうしたジャンルの盛り上がりぶりを指摘。また、2.5次元ミュージカルと呼ばれるマンガやアニメ、ゲームを題材としたミュージカルを「引き続き拡大路線にあるジャンル」と分析している。これを裏付けるように、東京都渋谷区にある劇場が、2.5次元ミュージカル専用の「アイア2.5シアタートーキョー」として2015年春から運用されている。
まさに順風満帆と言いたいところだが、ここに「劇場・ホール2016年問題」と呼ばれる壁が立ちふさがる。首都圏にある劇場やホールの閉鎖、建て替えが相次いでライブをする場所が少なくなっている問題だ。2015年11月に音楽や芸能に関わる団体が連名で行った会見では、この10年で多くのホールが閉鎖され、座席数が2万5000席減ってしまったことが指摘された。
能楽師で人間国宝の野村萬さんや、人気J-POPグループのサカナクションでボーカルを担当する山口一郎さん、バレエダンサーの斎藤優佳里さんらが出席した会見には、アニソン界からもベテランシンガーで、JAMProjectのメンバーとして活躍する影山ヒロノブさんが登壇して、窮状を訴えた。
「僕だけではなく、ほとんどのミュージシャンがステージの上で音楽を演奏してファンを元気にハッピーにすることが1番の使命と思っているだろう」と、人前で実演するライブの大切さを話した影山さん。「ストレスの多い現代社会で、どれだけアーティストたちのライブが社会の元気に直結しているか。そのためにも巨大都市・東京にはたくさんのライブ会場となり得る施設が必要だ」。
地方を回って公演すれば済むのでは、といった指摘もあるが、これについてサカナクションの山口さんが「地方はツアーのスタッフごと行くため経済的に負担がかかる。だから関東での収益を主にして地方での公演をしていく。そこが不足すると地方にも行けなくなる」と、人口の多い巨大市場の首都圏でライブを開く必要性を訴えた。
2020年の東京オリンピック/パラリンピックに向けて増える訪日外国人にも見てもらいたいアニソンのライブやイベントが、開きたくても開けないのは、インバウンドに新しい市場を見いだす日本政府にとっても支障となる。施設の建設には時間も費用もかかるため、対策への早急な決断が必要になっている。
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