子供の心の不調に目を向けて 早期発見へ開発進む教材やアプリ
子供の心の不調に本人が早く気付き、対処するのを助ける教材やアプリの開発に、大学の研究者と保健室の先生(養護教諭)らが協力して取り組んでいる。科学的な根拠があり、学校現場で使いやすいものにするのが目標。小学校高学年以上の児童生徒を対象に、教材の検証が進んでいる。
アニメで考える
今年2月、埼玉県飯能市の住宅地にある市立富士見小学校。6年生の学級活動の時間に、養護教諭の芦川恵美さんがイラストを見せた。男の子が朝、布団から出られない様子だ。「どうしてだろう?」と問い掛けると、次々に声が上がった。「夜中まで携帯をいじっていた」「友達とけんかした」「ストレス」
答えはアニメ教材を見ながら探る。勉強もクラブ活動も頑張り、夜更かししていた男の子がある日、調子を崩して学校に行けなくなってしまう。母親に連れられて医師を訪ねると「一緒に治そう、きっとよくなるよ」と声を掛けられる-。
学ぶポイントは(1)心の不調は誰にでも起き得る(2)睡眠不足など生活習慣が影響する(3)誰かに相談することが大事-の3点。プリントを穴埋めしながら、自分は誰に相談するかも考えてもらう。
この教材は精神科医の佐々木司東京大教授(健康教育学)、大学院生の小塩靖崇さんらが作った。授業1回で完結し、外部専門家に頼む必要がない手軽さが特長という。
発症14歳以下で
思春期の入り口に立つ年齢で、なぜ心の健康を学ぶ必要があるのか。
佐々木教授は「思春期は感情をコントロールしにくくなる年代で、精神の不調が起きやすい」と指摘。約5人に1人が一生の間に精神疾患を経験するが、大人の精神疾患の半数は14歳までに発症するという。「早めに気付き、手当てすることが大切だ。それには知識がいる」と佐々木教授は言う。
海外ではこうした授業を必修にする例もある。オーストラリアでは、ストレスや喪失体験への対処法、精神疾患の知識などを扱う教材が普及。英国や米国、カナダでも似た取り組みがあるという。
国内では、子供の心の不調に関する知識は広まっていない。そこで、関心を持つ研究者と養護教諭らが平成25年に「日本学校精神保健研究会」を組織。研究者が国内外の研究を紹介する一方、教諭からは「現場の知恵」を提供し、学校で使える教材の開発などを通じて子供の心の健康の向上を考えてきた。
これまでに小学生向けのほか、具体的な精神疾患の症状や、友達から相談された時の対応法を加えた中高生向けの教材も用意。24年度から首都圏を中心とする小中高約50校で試行し、知識の定着具合などを検証している。今後は教員や保護者を対象にしたものも作る予定だという。
察知の手助けも
東京大大学院生の北川裕子さんは、タブレット端末を使い、保健室を訪れた中高生の精神的な不調を早期発見するためのアプリを試作中だ。不安や抑鬱、自殺のリスクなどを測るため国際的に使われる質問から、学校で使うのに適したものを選んで構成した。
生徒自身に入力してもらう形式で、所要時間は5分ほど。「生きていても仕方がないと考えたことは?」「(自殺の)具体的な計画を立てたことは?」など、対面では聞きにくいこともタブレットが尋ね、養護教諭が面談で補う。結果は点数化され、危険度が高ければ家庭や医療機関と連携するきっかけになる。
試した生徒からは「声に出しにくいことも1人でそっと回答できる」との感想も聞かれたという。北川さんは「今後1年ほどで完成版にしたい」と話している。
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