タリス(3)ベルギーとフランスは同じ!? 国境を越えて走る紅の特急列車

江藤詩文の世界鉄道旅
二等車側からウェルカムバーへ向かうエントランス。朝早いせいか何かを食べている人は意外と少なかった

 紙コップ入りのホットチョコレートを注文したら、付け合わせがごっそり付いて来た。内訳は砂糖が2本にミルクが3個、スティックチョコレートが1本。絶対に砂糖入りに決まっているのに、なぜさらに砂糖をくれるのだろう。念のために味見するとやっぱり甘い。

 ここは“ルージュトレイン”の愛称で親しまれている特急列車「タリス」の食堂車。「ウェルカムバー」なんて可愛い名前がついている。外国で食堂車に乗るのは、私の数少ない趣味のひとつ。しつこく繰り返すが“二等車の通路側”という鉄道愛好家にあるまじき座席では手持ち無沙汰になり、そそくさと食堂車へ繰り出した。

 実は私は心に決めていた。しつこく繰り返すが“一等車には付いてくる朝食”を車内で食べようと。

 渡されたA4ペラ1枚のメニューをためつすがめつすると、ハムとチーズのサンドイッチやクロックムッシュ、今月のクラフトビールなんてのもあって目を奪われる。が、よく読み込むと落とし穴があって、これらのすべての注文は午前10時からになっている。

 このあたりでかなり気落ちしたが、セットで注文すると1ユーロお得な朝食セット7ユーロなりを注文してみた。すると「食べ終わる前に到着してしまいますよ」。……という経緯で、スーパーマーケットで買った6個とか8個とかのバリューパックが山ほどスーツケースに詰まっているというのに、「ベルギーらしいもの」と、それとまったく同じワッフルと冒頭のホットチョコレートに落ち着いたわけだ。

 砂糖とミルクのついでにスティックチョコレートも返しかけて手が止まる。わ、ヴァローナじゃないか。それを感じたのだろう。売り子のおばさんがもう2本差し出してくれた。「こちらもどうぞ。“ベルギーのチョコレート”はおいしいからね」。ベルギー人というおばさんの言葉に耳を疑う。なぜってヴァローナはフランス製なのだ。

「いいのよ、ベルギーもフランスもほぼ同じだから」。そう言って笑いながら「そんなことを気にするなんて、あなたはどこの国の人?」とおばさん。「へぇ、日本人って細かいのね。だいたいのヨーロッパ人は、ヨーロッパのものであればどこの国かなんて気にしませんよ」。

 EUが発足して20年ちょっと。「ベルギーとフランスは同じ」とおばさんが話していたちょうどその頃、タリスはいつの間にかベルギーからオランダへと国境を越えていた。

■取材協力:ベルギー・フランダース政府観光局

■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら