ジカ熱は性行為でも感染 リオ五輪は「ダチョウ抗体」配合コンドームで予防を

 
京都府立大学生命環境科学研究科の塚本康浩教授のグループが飼育するダチョウと卵(塚本康浩教授提供)

 リオ五輪開幕まで2カ月をきったが、ブラジルでのジカ熱感染の脅威はおさまっていない。ジカ熱は蚊が媒介するウイルス感染症だが、性行為などでも感染することが報告されている。厚労省も流行地域への渡航者には防虫対策だけでなく、コンドーム使用を呼びかけている。京都府立大大学院の塚本康浩教授(動物衛生学)のグループは、ダチョウの卵を使ってジカウイルス抗体を大量精製することに成功。感染予防に役立てたいとしている。(杉山みどり)

 ダチョウ卵から抗体の作製に成功 米軍・ブラジル機関と予防法共同開発

 「日本でエボラやMERS(中東呼吸器症候群)のように騒がれないのは、感染しても重篤な症状が出ないからでしょう」と塚本教授。ジカ熱はヤブカ属の蚊によって媒介されるジカウイルスによる感染症で、症状はデング熱に類似するが、それより軽いという。しかし、ギラン・バレー症候群や神経症状を認める症例も報告されており、「妊婦が感染すると胎児が感染し、ブラジルでは小頭症児が増えています」と続ける。

 ブラジルで小頭症児が多発する原因を調べたところ、妊婦がジカウイルスに感染していることが判明。ジカ熱で健康な成人が死に至ることはまれだが、妊娠の可能性がある女性は特に注意が必要だ。

 今回、塚本教授らは、ジカウイルスの一部を抗原としてダチョウに投与。体内で生成された抗体をダチョウが産んだ卵から取り出し精製した。「ダチョウ抗体とジカウイルスが抗原抗体反応を起こし、細胞への感染をブロックします」と説明する。

 同大グループは、すでに米国陸軍感染症医学研究所とブラジル政府系機関と共同で、ダチョウ抗体を使った予防法の開発に着手している。具体的には、ダチョウ抗体を配合したコンドームやスキンケア用クリーム、オーラルケア用品などで、「感染リスクを低減させたい」と塚本教授。また、ジカ感染が検出できる簡易診断キットも開発中で、「リオ五輪開催前の実用化をめざしたい」と話す。

 ダチョウ抗体はエボラ、MERSにも威力発揮

 ダチョウは傷の治りが極めて早く、塚本教授はその免疫力に着目して研究を開始。ダチョウが抗体を作る能力も高いことを突き止め、平成20年に卵から大量の抗体を取り出す技術を開発した。同年に新型インフルエンザが流行した際に販売した抗体入りマスクが注目を浴び、一昨年はエボラウイルスに結合する抗体、昨年はMERSウイルスに結合する抗体の作製にも成功した。現在、米国のバイオベンチャー会社と同研究所が共同で、ダチョウ抗体によるエボラ出血熱、MERS等の診断薬・治療薬を検証している。

 そもそも抗体はマウスやウサギや培養細胞から作製するため生産量が少なく高価であるため、用途が限られていたが、塚本教授はダチョウの卵を用いることで、従来の4000分の1の低コストで高品質の抗体を大量生産することに成功。「また、熱や酸、アルカリに強いので、大量消費型の製品へ応用が実現します」と塚本教授。ダチョウ抗体は、花粉症やアトピー性皮膚炎、ニキビなどに特化した製品(マスクや化粧品など)にも応用されている。

 感染予防が重要 蚊だけをターゲットにしていてはダメ

 リオ五輪開幕を控え、ジカ熱の感染拡大が懸念されている。共同通信によると、カナダ・オタワ大のアタラン教授(公衆衛生学)が米学術誌「ハーバード・パブリックヘルス・レビュー」に寄稿し、2015年以降、過去に比べて重症例が増え、「少し以前に考えられていたよりも危険な病気」と指摘。「五輪で世界からさらに50万人の旅行者が訪れ、感染してウイルスを自国に持ち帰れば、世界的な大惨事になりかねない」と警告している。

 また、感染経路は蚊だけではなく、性交渉で感染することが米疾病対策センター(CDC)の調査で判明。さらに、6月2日付NYタイムズ紙(電子版)は、オーラル・セックスでの感染の可能性を科学者らが提起-と報じている。

 「蚊のみをターゲットにしていてはいけません。感染を拡大させないために、予防が最優先課題となります」と塚本教授は警鐘を鳴らしている。