きかんしゃトーマス号(2)平成キッズも大はしゃぎ。昭和な車内と“昭和のオンナ”

江藤詩文の世界鉄道旅・夏休み特別企画
旧国鉄の客車。私が乗った車両の形式はスハフ42 304。

「ぼくは、へいせいにじゅうよねんうまれです。よんさいになりました」

 ピカピカに磨かれた蒸気機関車「きかんしゃトーマス」号には、7両の客車が連結された(後に到着した千頭駅でわかったことだが、約1時間の走行後はすすで汚れるため「子どもたちの夢を壊さないように」と、機関士や車掌が出発前も到着後も手作業で丁寧に磨き上げている)。前方車両は、大井川本線沿線の保育園に通う子どもたちが、すし詰め状態に座ってはしゃいでいる。へ~、平成24年ってつい最近じゃん、もうこの連載始めてたよ……。

 ま、私も昭和の香りをしっかり漂わせているわけだが、この客車の“昭和感”といったらどうだろう。SLがきれいにドレスアップしているのに比べて、三角旗やヘッドカバーでそれなりに見せてはいるものの“うらぶれた昭和のおっさん”みたいなくたびれた感じが妙に落ち着く。こないだ生まれた子どもたちにとっては、古めかしい扇風機が回っているのも、窓が重くてガタピシいうのも、すべてが新鮮なようで、歓声を上げている。

 「こちらは旧国鉄の客車をそのまま使っておりますので、エアコンは付いておりません。本日は暑いですので窓を開けておりますが、トンネルが続くエリアに入りましたら、窓を閉めてください」と言うのは、車掌の柴祐介さんだ。普段は運転士として乗務することもあるそうだ。

 夏の盛りの鉄道旅。出発そうそう女性乗務員が冷たいドリンクを売りに来た。「よく冷えたビールにお茶、ジュースはいかがですか」来た来たっ、ビール。「すみません!」 。その瞬間、若いお母さんの無邪気な声が耳に入ってきた。「まぁ、朝からビールも売っているのね」。売り子さん(と呼び止めた私)を見つめるいくつもの無垢な瞳。うっかり「お、お茶ください」と言ってしまったのが悔やまれる。

 平成キッズに大人気なのは、新金谷駅で限定販売している「きかんしゃトーマス弁当」。開けてみたらなんとまぁ、まるで昭和の弁当ではないか。赤いタコさんウィンナーを食べるなんて何年ぶりだろう。最後に食したのは、それこそ昭和のころかも。

 感慨にふけっていると、今度はお土産を持って、くだんの女性が再びやってきた。大井川本線家入駅で生まれ育ったという西下美智子さんだ。トーマス号が走り始めてから、子ども連れの若いファミリーの旅行者が増え、彼らとコミュニケーションするのが楽しくてしょうがないという。「私が二十歳だったとき、大井川鉄道がSLを走らせ始めたんですよ。や~だ、トーマスじゃないわよ。」と西下さん。ちなみにトーマスの運行は今年で3年目だ。「ということは、私いま23歳。いいわね、そうしましょう」あぁ~、このノリこそまさしく昭和。“昭和なオンナ”西下さんのおかげで、昭和の私もすっかり和んだのは、言うまでもない。

■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら