賃上げムードに水差す米政策 保護主義にドル高是正…強まる警戒感

転換点 平成29年春闘(上)
TPPからの離脱に関する大統領令に署名したトランプ米大統領=1月23日(AP)

 多くのトラックが行き交う東京都江戸川区の中堅運送会社。経営者の表情は晴れない。競争激化に伴い、業界ではドライバーの引き抜きが相次ぐ。だが、取引先から運賃の値下げ要請も根強く、人手不足にもかかわらず賃上げすらできない。経営の悪循環に事業継続への不安もよぎる。

 「政府や労働組合は大幅な賃上げというが、大手ならともかく、中小企業には関係のないことだ」と平成29年春闘にも冷ややかだ。

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 安倍晋三首相が経済界に賃上げを求める「官製春闘」は4年目を迎えた。過去3年間、大手を中心に経営側はベアを実現してきた。だが、政府が求めるデフレ脱却や個人消費の拡大を実現するには、大手だけの賃上げに終わらせてはならない。29年春闘は、中小企業を含めて、賃上げの裾野を広げていくための“転換点”でもある。

 それだけに労使は、取引先企業に対する支払価格の適正化を、大手企業に求めた。過度な値下げ要求などを見直し、系列や下請けなどの中小企業の賃上げを支援する狙いだ。日本総合研究所の山田久チーフエコノミストは「デフレ脱却を目前にして、政労使がかつてないほど連携し、賃上げを進めようとしている」と、29年春闘の前哨戦を評価する。

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 ただ、こんな賃上げムードに影を落とすのが、トランプ米大統領が打ち出す政策の波紋だ。経団連の榊原定征会長と連合の神津里季生会長のトップ会談でも、「懸念と期待が交錯している」(榊原氏)「予断を許さないのは事実。経済にどう影響するのか無視することはできない」(神津氏)と懸念の色を隠さない。

 トランプ氏による保護主義の台頭や、ドル高是正に向けた強権的な言動は、日本経済や企業業績に少なからぬ影響を及ぼす。また、春闘の牽引(けんいん)役となる自動車業界に対し、トランプ氏が日米の自動車貿易が不公正だと指摘していることも懸念材料だ。

 連合は、中期的な展望を確保するためにも月額賃金の引き上げにこだわる姿勢を崩していない。だが、神津会長は「トランプ氏の政策に関連し、企業業績や先行きに悪影響が出た場合、一時金の減額はやむを得ない」との見解を示し、ボーナスの減額については容認する姿勢をみせた。

 世界的に景気の不透明感が強まる中で、岐路を迎えた29年春闘。交渉の行方はまだ手探りだ。