優秀な新卒を「早く確保したい」 インターンで“内定”もらえる、本当か?
提供:PRESIDENT Online売り手市場といわれる新卒採用。「解禁時期」の見直しなどの影響で、学生が企業で就業体験を行う「インターンシップ」の中身がだんだんと変わってきている。就活生の間では「インターンシップは内定に有利」という噂も広まっているようだ。実態はどうなのか。新卒採用アナリストの谷出正直氏が検証する--。
「就業体験」と「セミナー」
2018年度卒の新卒採用は、就活生(求職者)が優位な「売り手市場」となっており、7月1日時点で、大学生の内定取得状況が79.1%。前年に比べて、8.0%増えています(リクルートキャリア調べ)。企業の採用意欲は高いまま推移しているため、早くから採用活動に取り組むことで、採用者の人数や質を確保していきたい企業が増えています。この「早くから」に影響を与えているのが「インターンシップ」です。
インターンシップそのものは以前から行われてきましたが、近年、その仕組みや目的が変化してきました。
現在のインターンシップは、「就業体験」と「セミナー型」に分かれます。「就業体験」は、本来のインターンシップの意味であり、実際の仕事を体験する内容になります。インターンシップ期間は5日間から1カ月間、数カ月単位や、長いと1年間や2年間という年単位で行うこともあります。実際の仕事を社員と同じように行えるため、具体的に仕事内容ややりがい、一緒に働く人との関係性、その企業の社風や文化を知ることができます。
一方、長期間の拘束になるので、大学の授業や学生生活に影響を与えます。授業を欠席したり、サークルや部活、学生ならではの自由な時間を使った取り組みができなくなったりします。一部の学生は、留学、休学をして長期間のインターンシップに参加する学生もいるほどです。
対して、「セミナー型」は会社説明会や先輩社員の声を聴くなどセミナー形式のものや、グループワークや課題などに取り組みます。開催日数として1日が多いため「1dayインターンシップ」とも呼ばれます。セミナーであることが多いので、業界や会社、仕事について知ることができます。
手軽に開催できる「1dayインターンシップ」が多くの企業で行われており、インターンシップの本来の意味である、就業体験という実体が伴わないと言われるようになってきました。
採用広報解禁のルール破りが横行
そういったことから、現在、インターンシップという言葉は「就業体験」と「セミナー型」の両方が言葉の意味に含まれて、使われています。学生にとって、「就業体験」であろうと「セミナー型」であろうと、就職活動の広報解禁前に、企業と接点を持つことはインターンシップ。企業がインターンシップという名称を使った取り組みを行うと、それはインターンシップと認識します。
2017年6月に文部科学省が発表した資料によると、インターンシップに参加した学生の約2割が、インターンシップに参加した企業から内定を取得したという結果があります。インターンシップが新卒採用(就職活動)と密接に関係するようになってきました。
もちろん現在の新卒採用のルールとして、経団連は「採用広報の解禁は3月、選考の解禁は6月」と示しています。ですが、現状は解禁月よりも先に広報や選考が行われています。あくまで経団連が示しているのは指針であり、守るべき強制力はありません。またルールを破ったからといって罰則があるわけでもありません。そのため、ルールを破る企業が続出しています。
特に、売り手の採用環境なので早くから採用活動を行いたいという企業の思いが、よりルールを破る行為へとつながっています。インターンシップの広報が新卒採用の広報としての機能を果たし、また、インターンシップを通じて得た企業と学生との接点が選考としての機能も果たしている、という面もあります。
インターンシップ増加の理由
この数年間でインターンシップを実施する企業は年々増加しており、また、参加学生も増加しています。なぜ、この数年で増えたのでしょうか?
インターンシップを実施する企業が増加した背景として、1つは、新卒採用が「売り手市場」になっているため、企業が学生に早く接触したいと考えるからです。就職活動中、学生は、一定数の企業の選考にしか進みません。時間的な制約があるため、興味がある企業の全ての選考に参加できないのです。
企業としては、優秀な学生に自社の選考を受けてほしい。そのためには、まずは自社を知ってほしいと考えます。そのため、解禁時期より前から活動ができる「インターンシップ」に注目が集まったのです。
2つ目として、新卒採用のスケジュールが後ろ倒しになり、採用広報解禁までの時間に余裕ができたことが挙げられます。これまで企業は、主に大学3年生、大学院1年生を対象に夏(学生の夏休み中)にインターンシップを実施していました。
ところが、16年度新卒採用から新卒採用のスケジュールが後ろ倒しになりました。それまでの12月広報解禁、4月選考解禁を、それぞれ3月、8月に変更したのです。その結果、早く学生と接点を持ちたい企業が、広報解禁前の動きを積極的にしました。そして、夏だけでなく、秋や冬にもインターンシップが実施されるようになったのです。
特に冬(1月~2月)は、実施企業が多く、夏よりも実施企業数が上回るようになりました。理由は簡単です。新卒採用の広報解禁の直前に企業を知ってもらう。そして、解禁とともにその企業へ応募、選考へとひと続きにつなげたいためです。インターンシップで学生と出会ってから時間がたってしまうと、学生がその企業の印象、イメージを失っていく可能性が高くなり、応募や選考につながりにくくなります。
本当に「内定に有利」なのか
次に、学生側の事情を見てみましょう。インターンシップに参加する学生が増加したのは、「内定がもらえる」「内定に近づく」という噂話が広まったからです。学生から人気の企業であればあるほど、「インターンシップに参加して、内定に近づけたい」と考える学生がたくさん集まるようになったのというわけです。
実際に、前述のようにインターンシップに参加した学生の2割が、参加した企業に内定しているという現実はあります。しかし、この「インターンシップに参加すれば内定がもらえる」という認識は、正しいとも間違っているとも言いがたい状況です。
たしかに、インターンシップに参加すると、業界や企業、仕事、社員、社風などをリアルに知る機会が増えるというメリットがあります。具体的に知れば知るほど、選考での企業・学生のお互いのマッチングが行われ、内定につながる可能性が高まる。「インターンに参加→企業を理解する→選考を通る→内定をもらう」というステップが、一見すると「インターンに参加→内定をもらう」につながったように見えることが、噂話が出てくる理由です。
また、以上のような企業と学生の思惑が重なったことで、大学内でインターンシップのガイダンス開催が増え、インターンシップ実施を売りにした企業が集まる合同企業説明会の開催も増えています。
インターンシップに参加すれば、選考に優位になるかもしれない。より身近にインターンシップを感じる機会が増えている。それらが売り手市場の中で、学生がインターンシップにこぞって参加している理由です。
インターンシップと就職活動が一体化
現在の動きを見てみましょう。2017年6月から、2019年度卒の新卒採用につながるインターンシップの告知が本格的にスタートしています。主要なインターンシップサイトに掲載されている企業数は、延べ1万3000社。前年の1.6倍になり、インターンシップを実施する企業は、さらに増加しています。
「企業を探し、知り、人事と出会い、お互いを理解する」という意味でインターンシップと就職活動が同じ意味になっています。もちろん人気、大手企業のインターンシップの参加は狭き門となり、エントリーシートの提出や面接といった選考があります。今や大学3年生、大学院1年生の夏から就職活動が始まるといっても過言ではありません。
新卒採用は後ろ倒しになったはずなのですが、実質的な活動の時期は変わってないどころか、早まっているとも言えるのです。当然早くから活動する学生の方が人事との出会いや会社や仕事を理解する機会が増えるので就活も優位になりますが、ただ無目的にインターンシップをしても意味がなく、就職活動が長期化になるだけです。
重要なのは「いかに社会を知るか」
以上を踏まえて、私がこれから就職活動を始める学生にアドバイスしたいことは、2つあります。つきなみですが、「目の前のことに一生懸命に取り組む」ことと、「社会を知る」ことです。
インターンシップに参加するから、部活やサークル、授業、研究、アルバイト、ボランティア、旅、趣味といった学生時代の自由な時間がたくさんあるからこそできることをやらないというのは、個人的にはもったいないと思います。経験や体験、人との出会い、違う価値観や考え方に気づくことによって人は成長していきます。
インターンシップでも学生時代だからできる経験でも、なんでもいいので、一生懸命に取り組んでいくことが大切だと思います。その中で、目標設定をすること、やりきること、周囲との協力をすること、チームワークを発揮すること、自分の思いを発信することといった社会に出てから求められる力に気づくことが可能です。
もう一つは、就職活動を行い、社会に出ていくなら、社会の成り立ちや仕事の流れを知ったほうがいいということ。学生と社会人ではそもそも異なることがたくさんあります。消費者から生産者になること。お金を払ってサービスを受ける人と、相手に役立つことをして(仕事をして)、価値に対する対価をもらう人とでは視点が変わります。それを理解しているかどうかで、就職活動の結果は大きく変わってくると思います。社会を知り、選択肢を持った状態で初めて選択ができるようになります。
インターンシップも、社会を知る一つの手段なのです。「内定につながるから」という安易な考えではなく、具体的に「社会の成り立ちや仕事の流れを知る」ために参加してこそ、インターンシップに価値が生まれるのです。
学生時代、一生懸命に取り組んだ経験を社会で活かしていく、社会につなげていくことを意識していくことが大切だと思います。無目的にインターンシップに参加しても、気づきや学びがなければ、内定につながるとも限りませんからね。
谷出正直(たにで・まさなお)
新卒採用アナリスト・コンサルタント。筑波大学大学院修了後、エン・ジャパンを経て、フリーで活動する。新卒採用に関連する情報・ノウハウ・知見・実績を持つ。
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